さらに、フォノンやロトンといった準粒子との散逸結合は定式化上取り込めますが、その補正は小さいため主結果に大きな影響を与えないとされています。

観測上の制約としては、外因的過程では境界の粗さやケルビン波励起が問題となり、内因的過程では膜厚による最低励起エネルギーが鍵を握ります。薄膜かつ低温条件が観測に有利であると結論づけられています。

最後に、流れが排水口に向かう幾何を考えると、半径依存の流速と密度を背景にホーキング放射のアナログ現象を模倣できる可能性が示され、さらに連続生成が引き起こす量子アバランシェや二次元量子乱流への遷移といった拡張も議論されています。

総じて、本論文は、座標依存の渦質量を取り込んだ厳密なWKB定式化と、シュウィンガー型の内因的核生成を量子相転移として再解釈する二本柱によって、二次元薄膜系での渦核生成の理解を刷新しました。

理論的に数値評価可能な予言を与え、具体的な実験手順まで示したことにより、凝縮系の量子真空トンネル研究を一段と現実的な段階へ押し上げた点に大きな意義があります。

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元論文

Vacuum tunneling of vortices in two-dimensional 4He superfluid films
https://doi.org/10.1073/pnas.2421273122

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部