「真空から何かが生まれる」という現象は、実は宇宙の始まり(ビッグバン)やブラックホールの性質など、宇宙物理学におけるさまざまな謎にも関係しています。
今回の研究で示された超流動ヘリウム薄膜のモデルを使えば、こうした壮大な宇宙現象を、小さな実験室の中で再現することが可能になるかもしれません。
言わば、この超流動ヘリウムの薄膜が、「小さな宇宙の実験室」として、宇宙に関する数々の謎を解く手がかりを提供してくれる可能性があるのです。
さらに教育という面でも、今回の研究は非常に興味深いものです。
重力については、ゴム膜とボールを使って直感的に理解できる仕組みが沢山実演されています。
しかし量子トンネル効果や量子相転移(温度ではなく量子の小さなゆらぎで物質の性質が突然変わる現象)といった複雑な量子現象については、なかなか視覚的に感じることはできません。
しかしこの仕組みを実現することで、空間から粒子が現れて消えていく様子を子供たちに視覚的に示すこともできるでしょう。
くわしい解説(専門家向け)
本論文は、二次元の超流動ヘリウム薄膜における量子真空トンネル生成としての渦の核生成を、外因的(境界に依存する過程)と内因的(バルクでの過程)に分けて定式化し、従来ほぼ一定とみなされてきた渦の有効質量がトンネル過程の進行に伴って連続的に変化することを明示的に取り込んでいます。
特に、均一な超流によって駆動される渦・反渦ペアの自発生成を、量子電磁力学におけるシュウィンガー効果と厳密に対応させ、零温における量子相転移として記述しています。
解析はWKB近似を用い、数値評価可能な生成率を与える点が特徴です。
理論は長波長ボース超流体作用から出発し、渦の有効作用にベクトルポテンシャル様の項を含める形で構築されます。
渦中心まわりの位相・密度ゆらぎを消去すると、有効作用は最小形に帰着し、そこには位置依存の動的有効質量と流れエネルギーが現れます。