うつ病の患者数は年々増加の一途をたどっており、社会的損失も大きいことから、早急に克服すべき問題となっています。

一方で、うつ病を理解するための先行研究は、げっ歯類を用いたものがほとんどで、よりヒトに近い霊長類を対象とした研究が期待されています。

2022年には、東北大学大学院 生命科学研究科は、東京大学、昭和大学が共同で、ニホンザルを用いた動物実験を実施し、非侵襲的な脳活動の操作により、世界で初めて、サルに人工的にうつ病を発症させることに成功しています。

この際、抗うつ薬の投与により症状の寛解にも成功しており、うつ病の病態と発症メカニズムの理解に大きな一歩を進めています。

ここからは、未だに多くの人を悩ませるうつ病とはどういう病気なのかが見えてくるかもしれません。

研究の詳細は、2022年7月7日付で医学雑誌『Experimental Neurology』に掲載されました。

 

目次

  • 世界で初めて、サルを人工的にうつ病にする

世界で初めて、サルを人工的にうつ病にする

研究チームは今回、ニホンザルの脳内における「内側前頭皮質(MFC:medial frontal cortex)」の腹側部を対象とした、局所的な脳機能の阻害実験を行いました。

MFCは、高度な認知や情動機能をつかさどる大脳皮質の中で、前方部の内側面に位置します。

情動や社会性、意欲の制御に深くかかわっており、とくにMFCの腹側部は、うつ病患者において機能異常が生じる場所として指摘される部分です。

この領域の機能を阻害する方法として、チームは、非侵襲的な脳活動の操作法である「経頭蓋磁気刺激(TMS:transcranial magnetic stimulation)」を用いました。

TMSは、頭皮に配置したコイルに電流を流して、急速な磁場の変化を起こすことで、頭蓋の外側から脳内に微弱な電流を与える脳刺激法です。

本研究では、ニホンザルのMFC腹側部を標的に反復してTMSを与え、同領域の神経活動を抑制し、一時的な機能障害を誘発しました。