しかし、ここ10年ほどの研究で、子どもの満足遅延は、社会的な習慣や周囲の環境に強く左右されることが示されつつあります。
つまり、どれくらい待てるかは、それぞれの子どもに備わる認知能力だけが要因ではない、と指摘され始めたのです。
そこで研究チームは、この近年の考えを推し進めて、文化に特有の「待つ習慣」が、子どもの満足遅延にどれほど影響しているかを調査しました。
今回の実験では、日本の子どもの「待つ習慣」として、食卓文化に注目。
日本の習慣では、料理が食卓に並んでも、全員がそろって「いただきます」を言うまで食べ始めてはいけません。
それゆえ、日本の子どもは、食べ物を前にして待つことに慣れており、マシュマロテストでも待ち時間は長くなるのではないか、と予想されます。

こうした「文化の違いが待ち時間を左右する」との仮説を検証すべく、チームは米カリフォルニア大学デービス校(UC Davis)と協力して、日本の4〜5歳児80名とアメリカの4〜5歳児58名を対象に、2つの比較実験を実施することにしました。
報酬を前にした待ち時間は「日常の習慣」によって決まる?
1つ目の実験は、お菓子を目の前にしたときの待ち時間を測る「食べ物条件」です。
この条件では、日本のような食卓文化が一般的でないアメリカの子どもにおいて、待ち時間が短くなると予想されます。
アメリカにも”食前の祈り”はありますが、あれはクリスチャン(キリスト教徒)に特有の習慣であって、全員がしているわけではありません。
しかし日本では、基本的にどの地域でも食前に「いただきます」を唱えています。
もう1つは、ラッピングされたプレゼントを前にしたときの待ち時間を測る「ギフト条件」です。
この条件では逆に、アメリカの子どもは、プレゼントをもらってから開けるまでに「待つ」経験を多くしています。