さらに、この人工骨の材料には抗生物質(細菌の増殖を抑える薬)が含まれています。

使われているのはバンコマイシンとゲンタマイシンという2種類の抗生物質で、これらは術後にゆっくりと時間をかけて患部から放出され、周囲の細菌の増殖を抑えて感染症のリスクを下げる仕組みです。

例えるなら、傷口に塗る消毒薬をゆっくり染み込ませ続けるようなイメージです。

この人工骨プリンターの効果を確かめるため、実際に動物を使った実験が行われました。

研究者たちは、ウサギの太ももの骨に1センチほどの大きな骨欠損を人工的に作り、このプリンターを使って欠けた部分に人工骨を直接押し出して埋め込みました。

人工骨は約40秒ほどで体温程度まで冷えて固まり、欠けた骨の形にぴったりフィットしました。

その後、骨を支えるためにプレートとネジで固定する処置を加えました。

このようにして作られた人工骨は、非常に素早く固まるため、手術の時間はプレスリリースによれば数分程度で済む可能性があります。

また、手術中にその場で形を自由に調整できるため、患者に合わせた人工骨が非常に効率よく作れる点が大きな利点です。

そして12週間後に人工骨を調べてみたところ、その周囲にはしっかりと新しい骨の組織ができていました。

細菌感染や組織の壊死(細胞が死んでしまうこと)などの問題も一切なく、安全性の兆候が確認されました。

さらに重要な結果として、この新しい方法で作った人工骨の方が、従来の方法(骨セメントを使って穴を埋める方法)よりも、明らかに多くの骨が再生していました。

詳しい比率は図の形でのみ示されていますが、明確に骨の再生が向上していることがわかったのです。

また、新しい骨の表面積や骨の強度を示すデータも、従来の骨セメントを用いた方法より優れていることが確認されました(ただし骨の厚みに関しては差がありませんでした)。

あえて分かりやすく言うなら、このデバイスは「骨の3Dプリンター」というより、「骨を自在に描けるペン」のようなものです。