ホーキング博士はブラックホールにもエントロピー(乱雑さ)の概念を導入しました。

つまり、ブラックホールの表面積が絶対に減らないことは、宇宙全体の乱雑さも絶対に減らない――そんな壮大な対応関係が見えてきたのです。

この「乱雑さ」が実は“情報の保存”ともつながっています。

物理学では、どんなに激しい現象が起きても、宇宙のすべての情報は本質的に消え去ることがない、とされています。

たとえば紙を燃やしても、燃えカスや光、熱の形で“情報”はどこかに残ります。

ところが、ブラックホールは何もかも飲み込んでしまい、表面の向こう側の情報が本当に消えてしまうのでは?――そんな不安が長年議論されてきました。

ホーキング博士の面積定理は、表面積が絶対に減らない=エントロピーが減らない、という法則が宇宙で守られていることを示し、「ブラックホールの中の情報も本当は“どこか”に残っているはずだ」と私たちにヒントを与えてくれます。

こうした理論は長らく“机上の空論”として語られてきました。

観測で確かめるには十分にクリアなデータが必要だったからです。

実は2021年にも、最初の重力波データを使った検証がありましたが、その時は信頼性が約2σ(97%前後)にとどまり、確証には至りませんでした。

またブラックホールにはもう一つ、“髪の毛一本生えていない”ほどシンプルな天体だという別の理論があります。

星々は温度や成分、年齢や大きさなど実にたくさんの個性を持ちますが、ブラックホールはそうした情報をすべて失って、「質量」と「スピン(自転)」だけで語れる究極に単純な存在だ――それが「カー解(Kerr解)」という理論です。

これを科学者たちは「ブラックホールには毛がない(No hair)」と面白く表現します。

では、ブラックホールが本当にこのようにシンプルな姿だとすると、一体何が観測できるのでしょうか?

ブラックホール同士が合体して新たなブラックホールが生まれると、そのブラックホールは激しく揺れながら重力波を発します。