この振動は「リングダウン」と呼ばれ、その重力波の『音の高さ(周波数)』や『響き方(減衰の速さ)』に、新しいブラックホールの性質が刻み込まれています。
研究チームはこのリングダウン部分の重力波を詳しく解析し、生まれたばかりのブラックホールの性質も慎重に調べました。
すると合体後のブラックホールは約63太陽質量(中心の推定値62.7太陽質量)という巨大な重さで、自転の速さ(スピン)は約0.68と見積もられました。
これはブラックホール同士が合体すると、結果として新しく生まれたブラックホールの面積は必ず大きくなるという「ホーキングの面積定理」が、まさにこの観測データから見て取れたことを示します。
ここで特筆すべきことは、この観測結果がどれほど確かなのかという点です。
実は科学者たちは、今回の観測が偶然ではないことを慎重に確かめるために、非常に厳しい条件で分析を行いました。
最も激しく揺れるブラックホールの衝突の瞬間をあえて除外したデータを使って分析した場合でも、合体後のブラックホールの面積は、必ず合体前の2つのブラックホールの面積を上回りました。
この差が単なる偶然である可能性は極めて低く、「統計的な確かさ(有意性)」は約4.4σという高い水準に達しました。
つまり私たち人類は、ブラックホール同士が合体した時、宇宙が課している「絶対に面積を減らしてはいけない」というルールが守られている様子を、実際に「音」としてはっきりと聞き取ったのです。
今回の発見は、ホーキング博士の面積定理という理論が正しいことを非常に力強く裏付ける結果となりました。
さらに、ブラックホールが生まれた後のリングダウンで得られた『音色』にも重要な発見がありました。
理論によれば、ブラックホールという天体は質量とスピンというたった2つの数値だけで完璧に特徴付けられ、それ以外の複雑な性質は一切存在しないとされています。