感染すると、HIVは人間の免疫細胞(CD4 T)に入り込み、その中で自分の遺伝情報をコピーしながら増殖を繰り返します。
免疫細胞は人間が病気から身を守るために重要な役割を果たしている細胞であり、その数が減ってしまうと抵抗力が落ち、健康な人なら問題ないような感染症にもかかりやすくなってしまいます。
これが、HIV感染症の最も進んだ段階である「エイズ(後天性免疫不全症候群)」です。
しかし現在は医学が大きく進歩し、「ART(抗レトロウイルス療法)」と呼ばれる効果的な治療法が普及しています。
ARTは複数の強力な薬を組み合わせて毎日服用することで、ウイルスが細胞の中で増えることを防ぎます。
これにより、ウイルスの量は検査で検出できないほどまで低く抑えられ、エイズを発症することなく健康な生活を長期間維持できるようになりました。
つまり、現在では適切に薬を飲み続ければ、HIV感染症はもはや「死の病」ではなくなったのです。
ところが、この治療にはひとつ大きな問題が残っています。
薬を飲んでいる間はウイルスが大人しくなりますが、体の中から完全に消えるわけではありません。
HIVは、人間の細胞の中に自分の遺伝子を組み込む性質があるため、薬によって増殖を止められた状態でも「眠ったまま」細胞内に隠れて生き続けているのです。
そのため、薬を飲み続けている限りは問題ありませんが、服用を止めてしまうと、隠れていたウイルスが再び目を覚まし、体内で急速に増殖を再開してしまいます。
あえて言うなら、現代のHIV治療はウイルスとの「モグラ叩きゲーム」のような状態なのです。
薬という「ハンマー」で叩き続けている間はHIVが静かになりますが、ハンマーを置く(治療を中断する)と、別の場所から再び顔を出してしまうからです。
ここで重要な疑問が浮かびます。
「HIVは体のどこに隠れているのか?」ということです。
科学者たちはこれまでの研究で、HIVが体の中の様々な場所、例えばリンパ節、腸、脳、骨髄、さらには生殖器のような臓器にも潜伏することを突き止めています。