この装置は「光共振器」と呼ばれ、ナノメートル(1メートルの10億分の1)単位で作られた小さな空間に光を閉じ込めることができます。

通常の研究では、光共振器はできるだけ光を逃がさず内部に閉じ込めるように設計されますが、今回の研究チームが取った方法は非常にユニークなものでした。

それは「損失」、つまり光が装置から逃げてしまう現象を「あえて積極的に利用する」という方法です。

普通の感覚では、光が漏れ出ることは望ましくありません。

しかし今回の研究者たちは、この漏れを絶妙に調整して「量子ドットと光との相互作用(互いに影響を及ぼし合う力)」や「外部から与えるエネルギー(励起)」とのバランスをとりました。

このバランス調整によって、量子ドットの間で理想的な協力関係が生まれ、「暗黒状態(サブ放射)」と呼ばれる特殊な状態を作り出すことに成功しました。

「暗黒状態」とは、複数の粒子が協力して光を打ち消し合い、ほとんど外に光を出さなくなる状態を意味します。

この状態では、量子ドットはお互いが持つ量子情報を静かに保ち続けることが可能になります。

実際の観測でこの「暗黒状態」を詳しく調べたところ、非常に興味深い現象が確認されました。

まず、一般的な「明るい状態(粒子が協力して強く光る状態)」では、粒子がまとまって光を放ち、短時間でその状態が崩壊します(これを「集団崩壊」と言います)。

今回の実験でも、「明るい状態」での粒子がまとまって崩壊するまでの時間は「61.6ピコ秒(約1兆分の61.6秒)」と、非常に短いものでした。

一方、「暗黒状態」では事情が全く違いました。

この状態では粒子が協力して光を放つことがほとんどなくなり、1つの光の粒(単一光子)が放出されるまでの時間が、最大で「36.1ナノ秒(約10億分の36.1秒)」にまで伸びました。

これは明るい状態のときの約600倍もの長さであり、この長寿命性こそが暗黒状態の最大の強みだとわかりました。