さらに、この「暗黒状態」を検証するためのもうひとつの重要な現象が観察されました。
それは「光子の同時到着(非古典的な光子バンチング)」という現象です。
通常、2つの粒子が独立して光を出す場合、光子は互いに無関係にランダムなタイミングで到着します。
ところが暗黒状態では、2つの量子ドットが協力して、まるで事前に約束したように2つの光子を同時に出す頻度が著しく増えました。
この光子が同時に到着する頻度は「g²(0)」という指標で表され、通常の物理法則で説明できる最大値(限界値)は「2」です。
しかし今回観測された値は「8.36」で、古典物理学の限界をはるかに超える非常に珍しい現象でした。
つまり、この暗黒状態にある量子ドットは普段は静かに隠れていながら、必要なときだけ2つの光子を同時に放つ特別な能力を示したのです。
この結果は、量子情報をより安定して保持し、将来的には量子コンピューターの性能を大幅に向上させる可能性を示しています。
まさに「量子もつれの寿命を劇的に延ばす」画期的な成果と言えるでしょう。
【まとめ】弱点を強みに変えた量子研究の大逆転

今回の研究成果の最も大きなポイントは、これまで理論の世界だけに存在した「定常的なサブ放射(粒子が協力して光を出さない暗黒状態)」を、初めて実験によって実現したことにあります。
これは、量子物理学者たちが長年追い求めてきた理論上の予想を、現実の世界で初めて確かめることができたという点で画期的な出来事です。
もうひとつ、この研究が科学者たちに強い印象を与えた理由があります。
それは、本来は量子実験において避けるべきとされていた「損失」を、むしろ積極的に使って成功したことです。
「損失」とは、光が実験装置から漏れ出てしまう現象のことで、普通は「敵」として嫌われます。
しかし研究チームは、この漏れる光を絶妙にコントロールして利用することで、粒子間の相互作用のバランスを調整し、結果的に「暗黒状態」を安定して作り出すことができました。