量子コンピューターは、従来のコンピューターでは何年もかかるような複雑な計算を瞬時に解く能力を秘めています。

量子通信は絶対に盗聴されることのない安全な情報伝達を可能にすると期待されています。

このように「もつれ」を利用することで、私たちの暮らしが大きく変わる可能性があります。

しかし、このように魅力的な量子もつれには、まだ実用化を阻む重大な課題があります。

それは量子もつれが非常に壊れやすく、外界のノイズ(熱の揺らぎや周囲からの電磁波など)によって簡単に消えてしまうことです。

このノイズによる量子もつれの崩壊現象は「デコヒーレンス」と呼ばれ、量子技術が実験室の外で広く実用化されるのを妨げる最大の壁となってきました。

そこで、量子もつれをより長く安定に維持する方法として、近年注目を浴びているアイデアがあります。

それは「明るい状態(ブライトステート)」と「暗い状態(ダークステート)」という2種類の状態を使い分けることです。

複数の量子粒子がもつれ合っているとき、全体として明るい状態(ブライトステート)になることがあります。

これは粒子が協力して光を強く放つため、観測しやすいという利点がありますが、そのぶん外部のノイズにもさらされやすく、もつれを保つ時間は短くなります。

例えるなら、「明るいスポットライトの下に置かれた宝石」のように、輝きは美しいですが、誰の目にも触れやすく、傷つきやすい状態と言えます。

一方で、今回の研究で特に注目したのが、明るい状態とは真逆の「暗い状態(ダークステート、サブラディアント状態)」という状態です。

暗い状態とは、粒子が協力して光を打ち消し合い、外に光をほとんど出さない状態のことを指します。

これを日常的な言葉で表現すると、「闇に隠された宝石」のようなイメージです。

暗いために外から見つけることは難しいですが、そのかわり外部のノイズにも影響されにくく、非常に安定しています。