混ざった物質の一部は核との相互作用によって成分が変わったりして、ますます昔の記録がわかりにくくなっています。

一方、火星はこれまで、地球や金星とは違い、大きな衝突を経験せず、小さくて静かな歴史を歩んだ惑星だと考えられてきました。

しかし最近の火星探査が進む中で、この考え方が少しずつ変わってきました。

実は火星も、約45億年前頃にかなり大きな天体と衝突した可能性が出てきたのです。

火星の北部は南部に比べて以上に平らな地形が広がっており、これが巨大衝突の証拠の一つと考えられています
火星の北部は南部に比べて以上に平らな地形が広がっており、これが巨大衝突の証拠の一つと考えられています / Credit:NASA

その証拠のひとつとして注目されているのが、火星の表面に見られる「全球二分性」と呼ばれる特徴的な地形です。

全球二分性とは、火星の北半球が非常に低く平坦である一方、南半球は起伏が激しくて高地が広がっているという、火星だけが持つ独特の地形のことです。

この地形の謎を説明するために考えられたのが「ボレアリス盆地」という非常に大きなクレーターです。

巨大な天体が火星の北半球に激突し、その衝突の影響で北半球が大きく削られ、平坦な地形が形成されたという仮説です。

この巨大衝突を起こした天体の大きさには諸説ありますが、直径1000~3000kmほどもあったと考える研究者もいます。

火星に巨大衝突があったかもしれないもう一つの証拠は、火星の衛星にあります。

火星にはフォボスとダイモスという二つのとても小さな衛星がありますが、昔はこれらの衛星は火星の近くを通った小惑星が偶然に引力に捕まった「捕獲衛星」だと考えられていました。

しかし最近では、これらの衛星も巨大衝突によって生じた破片が集まってできた可能性が提案されているのです。

こうした背景から、火星は地球とはまったく違う理由で「惑星のタイムカプセル」と呼ばれることがあります。

地球のようなプレート運動がない火星では、内部のマントル(地殻の下にある岩石層)の動きもゆっくりで弱いため、45億年前という非常に古い時代の衝突の痕跡が残りやすいと考えられているのです。