この散乱の原因を調べるため、研究者たちは観測データをコンピューターシミュレーションと比べながら分析しました。
その結果、マントルの中に「成分が周囲と異なる岩石の塊」がたくさん存在していることが分かりました。
それらの塊の大きさは1〜4kmほどで、大きな塊がいくつかある一方、その周りを小さな塊が無数に囲むという特徴的なパターンが見つかりました。
これは、まるでガラスが床に落ちて割れたときに見られるような、いくつかの大きな破片のまわりに小さな破片が無数に散らばるパターンに似ています。
言い換えれば、火星のマントルの中に衝撃で砕けた破片の「壊れ方の指紋」がそのまま残っているのです。
では、こうした岩石の塊はどのようにして生まれたのでしょうか?
研究チームは、これらの塊は約45億年前、火星に大きな天体が衝突した時の影響で生まれたと考えています。
巨大な天体が火星に激突したとき、その衝撃によって火星の岩石の多くは溶けてしまい、惑星全体が溶岩の海のようになったと考えられます。
同時に、衝突してきた天体の破片や火星自身の地殻・マントルの一部が溶けた状態でマントル深部に混じり込みます。
やがて火星の表面が徐々に冷え、一枚岩の固い殻で覆われましたが、マントルの内部では溶岩がゆっくりと冷えて固まり、その過程で生じた異なる成分の岩石片がマントル内部に閉じ込められたのです。
これらの岩石片が時間をかけて対流(熱によるマントル内部のゆっくりとした動き)によって少しずつ分散し、現在のような「混沌の名残」としてマントル内に保存されたと考えられています。
つまり今回の研究は、火星の内部に45億年前の巨大衝突の痕跡が、まるで「タイムカプセル」のように残されている可能性を初めて示したのです。
火星内部の混沌が教えてくれる「生命惑星」へのヒント
