このように従来の研究の“穴”を埋め、「肥満のパラドックス」に本格的に迫った大規模調査を行ったのです。
「肥満の“パラドックス”」実際は体重の安定が重要だった
ミネソタ大学公衆衛生学部を中心とする今回の長期追跡によって、どのような人が認知症になりやすいのか、これまでにないほど詳細に分析することができました。
まず明らかになったのは、確かに「高齢期のBMIが高い、つまり肥満の人ほど、認知症のリスクが低かった」という点です。
BMIが標準体重(18.5〜24.9)と比べて、過体重(25.0〜29.9)の人は認知症リスクが14%低く、肥満(30.0以上)の人は19%もリスクが低いという結果が示されました。
この数字は、多くの人が持っている「肥満は健康の敵」というイメージとは反対の結果であり、「肥満のパラドックス」を裏付けるものです。
しかし、重要なのは「中年期から高齢期にかけてBMIがどのように変化したか」という問題です。
この点に着目すると、意外な事実が浮かび上がってきました。
中年期から高齢期にかけてBMIが大きく減少した人たちは、どのBMIグループであっても認知症リスクが大きく高まっていたのです。
たとえば、もともと標準体重だった人が高齢期にやせ細った場合、認知症リスクはおよそ2倍近くに跳ね上がりました。
一方で、長年にわたってBMIがほとんど変わらず、安定していた人ほど認知症リスクが最も低い、という結果も得られています。
このことは、「太っていること自体が認知症を防ぐ」のではなく、「高齢になって急にBMIが減ること」が認知症のサインかもしれない、という新しい視点をもたらします。
研究チームによれば、高齢期の急激なBMI減少は、健康状態の悪化や、食欲・活動量の低下、あるいは認知症のごく初期に見られる変化と関連している可能性があります。
つまり、BMIの減少が「病気の原因」ではなく「結果」であることも考えられます。