たとえばアメリカやカナダでは、「白人らしい名前」と「黒人らしい名前」では、書類選考の通過率が大きく違うというデータが存在します。
また、名前から年齢を推測されたり、古風な名前が“まじめそう”だと思われたりすることもあるようです。
このような「名前によるバイアス」は、これまでは主に名前の持つ文化的な意味や民族的な背景が影響していると考えられてきました。
しかし、今回の研究で注目されたのは、「名前の“音そのもの”」が印象に与える影響です。
ここで登場するのが「音象徴(おんしょうちょう:sound symbolism)」という心理学の概念です。
音象徴とは、特定の音や発音が、言葉や名前の意味を超えて、私たちの感覚や印象に直接働きかける現象を指します。
たとえば“ルナ”や“ノエル”のような名前は、柔らかく丸みを帯びたイメージを持たれやすく、逆に“クリス”や“カート”のような名前は、少し鋭く、自己主張が強いイメージを抱かれる傾向があるといいます。
この現象は、世界中のさまざまな言語や文化でも確認されており、人は無意識のうちに音の響きから性格や雰囲気を想像してしまうことが知られています。
そこでカールトン大学の研究チームは、「名前の音」が採用選考のような場面で“有利・不利”に働く可能性があるのではないかと考え、独自の実験を設計しました。
実験では、同じ性別の「柔らかい音(l、m、nなどが入るsonorant:共鳴音)」と「鋭い音(p、t、kなどの無声破裂音)」を持つ名前をペアにし、「誠実さ」や「協調性」など特定の性格が求められる仕事ごとに、ペアになった名前のうちどちらを“その職種に採用したいか”を参加者に選んでもらい、その傾向を調査しました。
この実験は、名前だけの場合だけでなく、名前と写真、名前とビデオ面接など、さまざまな状況でも繰り返し実施されました。
その結果、名前の“音の響き”が無意識のうちに私たちの選択に影響を及ぼす、驚くべき仕組みが浮かび上がってきたのです。