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米国トランプ政権は4月8日、「美しいクリーンな石炭産業の再活性化」というタイトルの大統領令を発し、石炭を国家安全保障と経済成長の柱に据え、その推進を阻害する連邦規制を見直すこと、国有地での鉱区の拡大、輸出の促進などを包括的に指示した。

Reinvigorating America’s Beautiful Clean Coal Industry and Amending Executive Order 14241

内容を読むと、製造業の米国回帰と、AI用のデータセンター建設で増加する電力需要を賄うための安定な電力供給の手段として、石炭火力発電を位置づけている。そして、データセンター向けの石炭インフラの活用地域を具体的に特定するよう、関係省庁に命じた。

関連して、7月にはデータセンター関連インフラの許認可を加速する別の大統領令も発出されており、その中でも石炭火力発電は他の「ディスパッチャブル電源」と同様に推進されることになっている。ディスパッチャブル電源とは、発電量を人間が調整できる電源のことであり、自然任せである太陽光発電や風力発電は除外されている。安定した電力供給によってAI産業の基盤整備を図る、という考えが鮮明だ。

Accelerating Federal Permitting of Data Center Infrastructure

米国政府参加の国際開発機関に対しても、「石炭を萎縮させる内部規定の是正」を指示している。これを受けて、米輸出入銀行(EXIM)は5月、バイデン政権時代に実施されてきた「海外石炭事業への融資禁止」を全会一致で撤回し、石炭採掘・発電案件の支援に回帰するとした。

US Ex-Im Bank votes to reverse ban on overseas coal lending

米国は世界銀行にも「技術中立・価格重視」という方針転換を求めている。技術中立とは、特定の技術を差別しない、という意味だ。これを受け、世銀は6月、原子力発電に対する融資の禁止を解除し、天然ガス利用を含む「オール・オブ・ザ・アバブ(全方位)」戦略の検討に踏み出した。ただし、天然ガス田の開発や、石油・石炭関連事業については、まだ方針が転換したとは報じられていない。