そこで京都大学アイセムスの研究グループは、「細胞死を待たずに、不要な細胞を直接片付けることができる新しい仕組み」を開発しようと考えました。
そのカギとなったのが、死んだ細胞の“eat-me”シグナルを認識するタンパク質「Protein S(プロテインS)」です。
新しく開発された「クランチ」は、このProtein Sの「ホスファチジルセリンを認識する部分」を、標的細胞だけが持つ目印を認識できる部位に置き換えて設計された合成タンパク質です。
さらに、貪食細胞と結合しやすくしたり、貪食シグナルを活性化する仕組みも導入されています。
つまりクランチは、「不要な細胞」と「貪食細胞」を物理的につなぎ、不要細胞を片付けるよう貪食細胞に指示を出す橋渡し役となるのです。
これにより、細胞死を経ずとも不要細胞を体内から除去できます。
そして研究チームは、このクランチの性能を確かめるため、マウス実験を行いました。
マウスの不要細胞を処理・病状の改善に成功
研究グループはまず、マウスに「メラノーマ(悪性黒色腫)」というがん細胞を移植し、その表面に存在するタンパク質(TYRP1)を認識するクランチを投与する実験を行いました。
その結果、クランチを投与したマウスでは、がん細胞の増殖が著しく抑制されることがわかりました。
コントロール群として、がん細胞の表面目印と無関係なクランチを投与したところ、効果は得られませんでした。
このことから、クランチは標的とした細胞だけを選択的に除去できる高い特異性を持っていることが示されました。
さらに、自己免疫疾患(全身性エリテマトーデス,SLE)を起こすマウスモデルに対して、異常なB細胞を標的とするクランチを投与する実験も行われました。
その結果、血液中のB細胞が大きく減少し、病態の改善が認められました。
クランチの最大の新規性は、「細胞死を経ずに、不要な細胞を選択的に貪食細胞に取り除かせることができる」という点にあります。