なぜ解読できないのか?考古学者を阻む「三つの壁」
ロゼッタストーンが古代エジプト文字解読の鍵となったように、多くの古代文字は比較対象や文脈から解き明かされてきた。しかし、ファイストスの円盤の解読はなぜこれほどまでに困難なのだろうか。その理由は、大きく三つの壁に集約される。
** 1.孤立した存在であること(比較対象の不在) ** 最大の障壁は、この円盤が「孤高の遺物」であることだ。同じ文字体系で書かれた他の遺物が一切見つかっていないため、他の言語と比較して解読する手がかりが全くない。
** 2.文章が短すぎること ** 円盤に記された文字はわずか241文字。これは、言語の構造や文法を解析するにはあまりにも短すぎる。もしこれが商業記録のような定型文であれば繰り返しから推測も可能だが、内容は唯一無二のものと見られ、糸口がつかめないのだ。
** 3.そもそも何語で書かれているか不明なこと ** 円盤が書かれたミノア文明期にクレタ島で話されていた「ミノア語」自体が、まだほとんど解明されていない。ギリシャ語の祖先なのか、全く別の言語なのかすら不明なため、どの言語を当てはめて解読すれば良いのかさえ分からないのである。

解読への挑戦:女神への祈りから日本の神話まで
この難攻不落の謎に、世界中の研究者が様々な仮説を立てて挑んできた。その解釈は、学術的なものから、時空を超えた大胆なものまで百花繚乱だ。
** 【学術的なアプローチ】 **
** 宗教文書説: ** 言語学者ガレス・オーウェンズ氏は、いくつかの単語を線文字Aと関連づけ、「偉大な女性」や「妊婦」を意味する言葉を特定。「ミノアの女神に捧げられた祈りの言葉ではないか」と推測している。
** その他の説: ** ギリシャ語の「動員宣言」と解釈する説や、日食などを計算するための携帯用「天文記録」だったという説、あるいは詩や呪文、ゲーム盤だったという説まで、専門家の間でも意見は分かれている。
** 【大胆でユニークな仮説】 **
驚くべきことに、ファイストスの円盤と日本の古代史を結びつける説も存在する。
** 日本の神話との関連: ** 一部のブログや書籍では、円盤の螺旋構造が日本の古代文字とされる「カタカムナ」と似ていると指摘したり、『古事記』に登場する神「彦火火出見尊(ヒコホホデミノミコト)」の名が記されていると主張したりするものまである。これらは学術的な裏付けに乏しいが、古代の謎が人々の想像力を掻き立てる好例と言えるだろう。

