小売業のビジネスモデルを変える存在に

 そんな同社が今後、積極化していきたいのは、AI領域とロボティクス領域だ。大久保氏は言う。

「AIの進展で、生活者の意思決定のプロセスそのものが変わっていきます。従来は人が検索したり比較したりしていた部分をAIが担うようになれば、小売・流通のビジネスモデルは根底から変わります。また、労働力不足が起きてくるなかで、省人化のためのロボティクスの導入も求められます。その変化を先取りして業界を支えるスタートアップを増やしたいと考えています」

 その動きはすでに始まっている。コンピュータービジョンを活用した省人店舗システムを開発するスタートアップ・VisionAIや、AIによってEC運営を効率化するSync8への出資も、その文脈に沿ったものである。

 二人はさらに先の未来も明確に思い描いている。小売・流通の現場にある課題を解決するスタートアップが次々と生まれ、事業会社との協業を通じて産業全体が活性化していく社会である。

 小売業は従来から利益率の低い構造に縛られてきた。人材不足や物流コストの上昇といった課題も重なり、従来型の効率化だけでは限界がある。だからこそ、新しい技術や異業種との協業を取り込み、消費行動の変化をプラスに転じる必要がある。

 New Commerce Venturesは、その変化を共につくるスタートアップを増やし、業界の構造変革を後押ししていこうとしている。今年は2号ファンドの組成にも挑戦する予定だ。同社は、小売領域のスタートアップ、事業会社、VCを結ぶハブとして、産業の変革を滑らかに支える存在になっていくのかもしれない。

(寄稿=相馬留美/ジャーナリスト)