協業を「形」にする投資後支援
New Commerce Venturesの真骨頂は、投資後の支援にある。単なる資金提供ではなく、スタートアップと事業会社を結びつけ、協業を「形」にすることを重視してきた。
その代表例が、OpenFactoryの事例だ。LPの一つであるECサイトシステムを提供するGMOメイクショップと、一点モノの商品をオンデマンドで作るAPIを提供するスタートアップ・OpenFactoryを引き合わせた。結果として協業が始まり、GMOメイクショップを利用する小規模事業者でも、大手と同じようにオリジナル商品の製造販売を可能にした。その後、両社は資本業務提携にまで発展している。
こうしたエピソードは、New Commerce Venturesが「オープンイノベーション」という言葉を単なるスローガンに終わらせないことを示している。大久保氏は強調する。
「紹介して終わりではなく、協業にまで持っていくことを意識しています。それが我々の差別化の源泉なんです」
「入口」と「出口」、それぞれの課題
松山氏は、まず「入口」にあたる資金調達段階への危機感を語る。
「シードのバリュエーション(企業価値評価)が高止まりしていて、その後の成長で苦しむ企業が増えている。VC間の競争が要因になっている部分もあり、本当に良いことなのか疑問です」
有望なスタートアップを奪い合う結果、企業価値が実態以上に膨らむ。調達直後は華やかでも、次のラウンドで成長が追いつかず、資金繰りに苦しむ企業も少なくない。松山氏が懸念するのは、こうした「入口の歪み」が成長力をむしばむ点だ。
一方で、「出口(Exit)」にも課題があると大久保氏は指摘する。
「VCビジネス自体の持続可能性を高めるにはExitの多様化が不可欠。M&Aや大企業のケイパビリティ強化が進まなければなりません」
資金の循環が滞れば、エコシステムは育たない。いずれ投資先はExitを迎える。その際、IPOだけでなくM&Aのアレンジを担うことも、New Commerce Venturesが果たすべき役割だという。
「海外の領域特化ファンドでは、事業会社とのネットワークが厚いほど、スタートアップが『相談したい』と集まってくるという循環ができています。つながりの中で統合し、大きくなっていく。僕らもそうした存在になりたいと考えています」(松山氏)
実際、同社はスタートアップと事業会社を結ぶオフラインイベントやカンファレンスを定期的に開催し、共同事業の創出を後押ししている。さらに大久保氏は業界団体へも積極的に関与し、ネットワークを広げている。そこから事業会社を巻き込んだExitが生まれる可能性も視野に入れている。