VCの同僚から共同創業者へ
松山氏ともう一人の創業者・大久保洸平氏は、New Commerce Venturesの共同代表である。二人はYJキャピタル(現Z Venture Capital)の出身で、4年間同じ職場で過ごした。日々の業務を通じて築いた信頼関係が、独立の土台となった。
「それまでも会社帰りに一緒に飲んで帰るような仲でした。2021年末、飲みながらキャリアの話をしているうちに、二人のキャリアの合致点が見えてきて、“独立”という選択肢が急に現実味を帯びたんです」と大久保氏は振り返る。その後わずか数か月で退職を決意し、資金調達へと動き出した。
松山氏には、さらにもう一つの背景がある。YJキャピタルに入る前、起業に挑戦した経験を持つのだ。しかし事業は思うように軌道に乗らず、悔しい結果に終わった。入社当初は「3年後には起業する」と心に決めており、同僚の中でも優秀だった大久保氏に、起業アイデアを持ち込み、議論を重ねることも少なくなかった。
「地域の課題を解決したいと考え起業したが、VCをやってみて思ったのは、優秀な起業家が世の中にたくさんいて、同じような課題を解決している。だったら自分が一つの事業を立ち上げるよりも、そうした起業家を支援して、事業会社とつなぎ、生活者に届けるほうが圧倒的に大きなインパクトを生み出せると思ったんです」
この経験が松山氏の視座を大きく変えた。起業家として「自分の事業を成功させる」ことから、投資家として「数多くの起業家を支援する」ことへ。その失敗こそが、いまのVCとしての姿勢を形づくったのだ。
「特化」に見いだしたVCとしての勝ち筋
2022年の春、二人は退社し独立。当初、最大の課題は資金集めだった。Exit実績のないなかで、LP(ファンドに資金を提供する投資家)からの信頼を得る必要があったからだ。
「我々は大きなIPO(株式新規上場)やM&A(合併・買収)のトラックレコード(実績)を持っていませんでした。その中で選ばれる理由をどうつくるか。そこで、これまで存在しなかった『小売・流通領域特化型』ファンドにするという差別化が勝ち筋だと考えました」と、大久保氏は語る。
設立からわずか4カ月で事業会社を中心にLP出資を取り付け、2022年8月のファーストクローズに至った。LPにはEC関連企業や決済企業、さらにはメディアやアパレルなど幅広いtoCビジネス企業が名を連ねる。スタートアップと接点を持ちたいという思惑は強く、「この領域のスタートアップに網羅的に会える」という強みを訴求している。
投資先の7割はシードステージで、出資額は3000万〜5000万円程度。残り3割はミドル・レイター案件に投資する。基準は「製造から消費者に届くまでのサプライチェーン上の課題解決をしている会社」であることだ。
松山氏は、経営者を見る際のポイントをこう説明する。
「シードステージの場合、やはり経営者を重視します。ポイントは3つ。誰よりもその分野に詳しいこと。PDCAをスピーディーに回せる行動力。そして逆算思考です。実現したいという想いが強いからどんどん詳しくなるし、詳しいからこそ選ばれる理由や勝ち筋を見つけられる。そしてそのアイデアを高速で検証する行動力があるか。さらに高いゴールを設定し、そこに至る逆算のステップを描けるか。この3つが揃っているかを見ています」
たとえば、ソーシャルコマースを展開するBoomeeは、代表の沼田佳莞氏の行動力と吸収力が際立つという。松山氏は「アパレルに対する知識ゼロから高速でヒアリングや検証を繰り返し、短期間で製造から販売まで解像度高く設計している。その姿勢は投資家として惹かれるポイントです」と話す。
一方、大久保氏は経営者に対して「10年間一緒にやりたいか」という基準を挙げる。
「失敗しても応援できる相手か、10年間ともに過ごしたいと思えるか。ファンドは10年続くので、その感覚は大事です」。