最初のスタート地点をそろえることで、哲学を学ぶという行為自体が学生の能力を伸ばしたのかどうかを、より正確に判断できるわけです。
ただし、SATでは完全には論理的な思考力を測れないという限界があるため、結果を見る際には注意が必要になります。
さらに研究チームは、テストだけでなく学生の「考える習慣や姿勢」にも注目しました。
大学1年生の時と4年生の卒業間近の時に、学生自身にアンケートを行い、「どれくらい自分から進んで新しい知識を求めるようになったか」「意見が違う人の考え方を理解しようとするか」といった姿勢を自己評価してもらったのです。
これらは専門的に「Habits of Mind(探究心や批判的に考える習慣など)」と「Pluralistic Orientation(異なる考え方を柔軟に受け入れる姿勢)」と呼ばれています。
そして、こうして丁寧に集められ分析されたデータから、興味深い結果が浮かび上がりました。
まず最初に、哲学を専攻した学生は、言葉の力(GREの言語部門)と論理的な思考力(LSAT)に関して、卒業時の成績が他の専攻よりもはっきりと高くなっていたのです。
具体的には、GREというテストの「言語推論」の部門では、哲学科の学生の平均点が他専攻より33点も高く、LSATでも2点ほど高くなっていました。
こうした差は統計的にも明らかで、偶然とは考えにくい、信頼できる差であることが確認されています。
ただし、同じGREでも数学部門の結果には、哲学専攻と他の専攻の間にほとんど差がありませんでした。
つまり哲学は、数学の力を伸ばすことにはあまり貢献しなかったということになります。
またアンケートの結果では、哲学を専攻した学生は卒業までの間に、他専攻の学生と比べて「探究心」や「批判的な考え方」、「異なる意見を受け入れる柔軟性」などがはっきりと高まっていました。
この向上は入学時の能力差を調整した後でもはっきり確認され、伸びの幅は小さめでしたが確かな効果が見られました。