この研究から言える最も重要な点は、陰謀論を信じる人が「ただ単にだまされやすい人」というわけではないということです。

むしろ、陰謀論を信じる人たちは特定の情報に対して独特な脳の反応パターンを持っており、それが彼らの信念を支えているのです。

現実の情報に対しては普通の判断ができているのに、陰謀論に触れた途端、脳内で別のスイッチが入ったように情報の受け取り方が変わってしまうのです。

こうした「陰謀論モード」の存在は、なぜ彼らが反証を突きつけられても考えを改めないのかを、神経科学的に説明する手がかりになるものと言えるでしょう。

実際、高い陰謀論信奉者では、不確かな情報に対しても前頭前野が活発になり信念を維持する方向に働く一方、低い人では豊富な記憶ネットワークを動員して真偽を吟味するという“すれ違い”が起きていました。

ただし、本研究には注意すべき点もあります。

被験者は中国の若い成人に限られ、異なる文化や状況でも同じ結果が得られるかは今後の研究で確認が必要です。

しかし、こうした制約がある中でも、陰謀論にハマる心理の一端が脳の働きとして示された意義は大きいと言えます。

従来は「情報リテラシー教育を強化すればデマに騙されないだろう」と考えられがちでしたが、本研究は問題がそれほど単純ではない可能性を示唆します。

つまり、人によっては脳の情報処理の偏りとして陰謀論へのハマりやすさが現れているため、単に事実を提示するだけでは効果が薄いかもしれないのです。

では、陰謀論に立ち向かうにはどうすれば良いのでしょうか?

今回の研究はこの点についても重要な示唆を与えてくれます。

陰謀論を単に事実で論破しようとするだけでは不十分で、感情面や価値観に訴えるアプローチが必要だと考えられます。

今後の研究では、情報の伝え方や情報源の示し方によって、人がどのように陰謀論的な情報を評価するかが調べられる予定です。