ここまで説明してきたように、このAIはまだ完璧ではありません。
しかし、人間がすべての雑誌を一つ一つ確認して「あやしいかどうか」を判断するのは、現実的に不可能です。
世界中には膨大な数の学術雑誌があり、それらを人の手だけでチェックするのは時間と労力がかかりすぎます。
そのため、AIを活用することで、多くの雑誌の中から「あやしいかもしれない雑誌」をある程度の正確さで素早く見つけ出し、その後に専門家がじっくりと検討すればよいのです。
AIが雑誌のチェック作業を最初に引き受けることで、限られた人間の専門家が本当に精査すべき重要な雑誌に力を注ぐことができるようになります。
今回の研究チームは、このAIを「科学の防火壁(ファイアウォール)」と表現しました。
防火壁とは、もともと建物で火災が広がるのを防ぐ壁のことで、コンピューターの世界では、外部からの危険な侵入を防ぐためのシステムのことを指します。
つまり、このAIは怪しい雑誌が科学界に入り込んで信頼性を壊してしまうのを防ぐ、最初の防御ラインとして機能するというわけです。
研究チームは、大学や出版社がこのAIを手軽に利用できるようにすることを検討しており、このシステムが普及すれば、怪しい雑誌による科学への被害を防ぐことが期待されます。
もちろん、それはあくまで専門家が最後のチェックを行うという前提のもとですが、AIを上手に使うことで、科学の信頼性を守る新しい仕組みが生まれることになるでしょう。
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元論文
Estimating the predictability of questionable open-access journals
https://doi.org/10.1126/sciadv.adt2792
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。