●この記事のポイント ・ケーズHD、「がんばらない経営」を掲げて、従業員にノルマを課さないというユニークな経営スタイル ・従業員が大切にされていると感じるからこそ、お客様に本当の親切を提供することにつながる ・何をすべきかを自らが判断し、率先して動くことができるような従業員をOJTによって育成
全国に「ケーズデンキ」を550店舗超展開する大手家電量販店で、年間売上高は7380億円、営業利益は218億円(ともに2025年3月期)に上るケーズホールディングス(HD)。ヤマダホールディングスが住宅・家具・EV(電気自動車)の販売や住宅リフォームを手掛けたり、ヨドバシカメラがEC(「ヨドバシ・ドット・コム」)に注力するなど多角化が進む家電量販業界において、ケーズHDは家電販売に特化する戦略を取っていることでも知られている。そんな同社は経営方針として「がんばらない経営」を掲げて、従業員にノルマを課さないというユニークな経営スタイルをとっている。それでも2011年3月期まで64期連続で増収を続け、現在も年間売上高7000億円超と黒字を維持するなど業績は好調だが、その秘密は何なのか。ケーズHD社長の吉原祐二氏にインタビュー取材した。
●目次
「1、従業員 2、お取引先 3、お客様 4、株主」
「がんばらない経営」とは、具体的にどのような経営スタイルなのか。吉原氏は次のように説明する。
「当社の経営方針は『がんばらない経営』です。これは、現名誉会長である加藤修一が小学生時代のマラソン大会で途中トップに立ちながらもゴール前で抜かれ万年3位だった体験から、途中で無理をしてもトップを取れないことを悟りました。それを経営哲学に換言し、『がんばらない経営』という経営方針を作りました。経営は終わりのない駅伝競争であるから、ある時だけ無理をしても意味がない。やるべきことはちゃんとやる、しかし、できもしないことをやろうとしないということです。
この経営方針が具体的にどのように店舗運営に反映されているかというと、従業員にノルマを課していないということです。『もっと売れるだろ、もっと頑張れ、もっと売りまくれ』と言ったら従業員はやる気をなくします。逆に、『どんどん自由にやってください。頑張らなくていいんです』とのびのび働ける環境を作れば、成績も上がり、そのことに喜びを感じ、さらに成績を上げるために商品の勉強をするようにもなります。
無理して大きな目標を立てないことも大切です。大きな目標を立てると、上司が部下を追い込んだり、お客様に必要のない商品まで無理に売りつけたりといった行動に出る恐れがあります。ややもすれば、お客様をだますようなことをして売り上げを伸ばそうとするかもしれません。無理をして目標を達成しようとすると、手の届かない目標設定に無理・無駄が出て、トータルで見ると結果的には『あまり儲からなかったね』となります。その上、従業員は疲弊し、次の年の売り上げが伸びないといったことも起こります。
そのため、なるべく手の届く目標を立てています。従業員にプレッシャーを与えず、のびのびと働ける環境を作ったほうが、経営はうまくいく。無理をして自分の力以上の力を出すことは短期的には可能であっても、終わりのない会社経営には適切ではありません。無理をすれば、必ずその反動があります。お客様にご満足いただくために、あるべき姿に向かって、正しいことを無理をせず、確実に実行していきます。これが、がんばらない経営の極意です」
同社は大切にすることの優先順位として、あえて従業員を第一に据えている。
「“お客様を大切にする”というのは、どの小売業でも当然、重要視している考えだと思います。しかし当社はあえて、順番をつけるのであれば『1、従業員 2、お取引先 3、お客様 4、株主 』の順に大切にしようと考えています。これは決してお客様を軽んじているわけではありません。お客様を大切にするには、まず会社が従業員を大切にしなければ、そのことは実現しません。会社から大切にされていない従業員が、お客様に親切にすることができるでしょうか。従業員が大切にされていると感じるからこそ、笑顔で活き活きと働くことができ、それが延いてはお客様に本当の親切を提供することにつながるのです。そのために当社は従業員にノルマを課さず、残業を抑制し、充実した福利厚生制度を整えています。
お取引先も同じです。当社側だけが儲かればよいという考えは持たずに、お取引先を大切にして良好な関係を築くことで、お客様へ安定した商品提供を実現することができます。つまり、従業員、お取引先の順で大切にするということは、結果的に本当の意味でお客様を大切にすることにつながるのです。そして得られた利益は株主をはじめとした、すべてのステークホルダーに還元されます。この一連のつながりが事業を通じた人の『わ』(和、輪)であり、そのことが延いては社会貢献につながるという考え方です」(吉原氏)