また、今回使ったCaco-2細胞にはもう一つ重要な特徴があります。
それは、この細胞が集まって「上皮組織」という膜のような構造を作ることができるという性質です。
上皮組織というのは私たちの体を外界から守っている皮膚や腸の内側を覆う膜のような組織で、多くの細胞が協力してできています。
もしCaco-2細胞が単独で持つこの「回転する仕組み」が、細胞が集まった多細胞の組織になったときにも見られるのだとしたら、組織や器官の左右非対称性がどのようにして生まれるのかを調べるための非常に良いモデルになる可能性があります。
つまり、1つの細胞のキラリティ(利き手)が、多くの細胞が集まった組織のレベルでのキラリティにどのようにつながっているのかを知る上で、このCaco-2細胞はとても役に立つ存在になるかもしれないのです。
この問題を解明するためには、今後の研究で細胞が集団になったときにどのような動きを示すのか、単一の細胞のキラリティがどのように組織全体のキラリティにつながっていくのかを詳しく調べていく必要があります。
今回の研究で明らかになった細胞の回転運動を生み出すアクトミオシンリングの仕組みは、生き物の体全体に見られる「左右非対称性」の謎を解くための重要な一歩になるかもしれません。
研究チームはこれからも、「分子のねじれ」→「1つの細胞の回転」→「細胞集団(組織)」→「生物個体」という、より広い階層へとつながる左右非対称性の仕組みを、一つ一つ明らかにしていこうとしています。
このような研究が進めば、人間を含めた多くの生物が、なぜ左右が異なる構造を持つようになったのかという、生命の深い謎の理解が進むことが期待されます。
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参考文献
細胞の“利き手”を決定する新原理を発見-生物の左右非対称性を解明する手掛かりに-
https://www.riken.jp/press/2025/20250826_5/index.html