この現実を踏まえれば、ある程度の資産を築いていないと「楽しい経験にリスクを取る」という選択は現実的に難しい。リスクを取ってお金を使うことで得られるリターンよりも、増えていく資産を眺めて悦に入る喜びをどうしても選びがちだ。
DIE WITH ZEROは実践することが非常に難しいのだ。
長生きリスクの難しさ
2つ目に「ゼロで死ぬ」は非常にハードルが高い。
人生には様々なリスクがあるが、最も計算が難しいのは「死亡リスク」と思っている。キャリアを追いかけ、たくさんの資産を積み上げて「さあ、これから使うぞ」と思っている矢先に病気や事故で若くして亡くなることがある。その逆に自分は早死にすると思っていたが、想定外に長生きをしてしまうことだってある。
年を取れば誰もがいずれは働くことができなくなる。そんな時、最も頼りになるのはやっぱりお金である。一応、そのために年金があるが今の若い世代は、年金をあてにしている人は少ないのではないだろうか。だから確実に来る老化に備えて、計画的にしっかり蓄財をするということは最優先にされるのだ。
目先の消費をすることで、この最優先事項がぐらつくという感覚があるため、よほど余剰資金がある人でなければゼロで死ぬことは非常に難しい。
老後より今が大事
世の中には「老後の備えを第一に考えよ」と説く人がいるが、筆者はお金がなく若い頃からこの考え方に否定的だった。実際、当時は半年後どころか1ヶ月後の家賃さえ不安で仕方がない状況にあったが、老後については「どうなってもいい。それよりも若い時期を充実させたい」と思っていたのである。
理由は単純だ。若い時間の方がはるかに価値が高いからだ。もし若いときに満足できないのなら、年を取ってから急に輝かせようなどと思わない方がいい。老後の不安に縛られて若さを消耗するより、多少無理をしてでも若い時間を充実させた方がよいと考えていた。
今ではこの考えは100%完全に正しいとは思わない。やっぱり年を取ってからの人生も考えるものである。だが「若さを犠牲にしてまで老後のために生きるべきではない」という点についていえば、今でも正しいと確信している。