一方、活動を禁止されたウクライナ正教会(UOC)は当時、モスクワ総主教のキリル1世を依然支持していたが、2022年5月27日、モスクワ総主教区から独立を表明した。その理由は「人を殺してはならないという教えを無視し、ウクライナ戦争を支援するモスクワ総主教のキリル1世の下にいることは出来ない」と説明している。その結果、ロシア正教会は332年間管轄してきたウクライナ正教会を完全に失い、世界の正教会での影響力は低下、モスクワ総主教にとって大きな痛手となった。

ロシアのプーチン大統領は2022年2月24日、ウクライナ侵攻への戦争宣言の中で、「ウクライナでのロシア系正教徒への宗教迫害を終わらせ、西側の世俗的価値観から守る」と述べ、聖戦の騎士のような高揚した使命感を漂わせた。そのプーチン氏は今月15日、米アラスカでトランプ大統領と首脳会談したが、その際も「ウクライナでのロシア正教の活動を認める」ことを和平交渉の条件に挙げている。

ちなみに、世界の正教会の大多数が戦争に反対しているなか、ロシア正教会最高指導者モスクワ総主教キリル1世はプーチン大統領のウクライナ戦争を「形而上学的な闘争」と位置づけ、ロシア側を「善」として退廃文化の欧米側を「悪」とし、「善の悪への戦い」と解説する。キリル総主教は2009年にモスクワ総主教に就任して以来、一貫してプーチン氏を支持してきた。キリル1世はウクライナとロシアが教会法に基づいて連携していると主張し、ウクライナの首都キーウは“エルサレム”だという。「ロシア正教会はそこから誕生したのだから、その歴史的、精神的繋がりを捨て去ることはできない」と主張し、ロシアの敵対者を「悪の勢力」と呼び、ロシア兵士に闘うように呼び掛けてきた。

なお、ウクライナ当局の決定に対し、UOC側は「教会は2022年5月にモスクワ総主教庁からの独立を宣言している」として、モスクワ寄りという非難を否定。UOCのスポークスマンは「新しい法律は憲法違反であり、ウクライナが欧州連合(EU)に加盟するために遵守しなければならないいくつかの国際協定にも反している」と批判している。