そうこうするうちに、各社の世論調査結果は次々と、「首相は続投すべきだ」の流れになってきました。NHKの「続投すべきだ49%、すべきでない46%」には、保守系の専門家からクレームがついたほどでした。退陣論の読売の世論調も、辞任すべきかについて「そう思う42%、思わない50%」で、社説の主張と真逆の調査結果となり、「辞任すべき派」は劣勢のようです。

初期には「進退を決すべき」だった朝日新聞の世論調査でも「辞めるな54%」「辞めよ36%」ですから、世論調査結果は偏っているのではなく、そういう流れになってきたのでしょう。そのせいか、朝日新聞は社説で「進退を判断すべきだ」調の主張は見かけなくなってきました。

既存メディアと無関係に世論が落ちどころを予想する。いくつかの要因があるでしょう。まず世論は自民党の旧態依然とした体質に嫌気している。いかにも腹黒のボス然とした麻生氏や、お役目御免となったはずの岸田氏らが、舞台裏でうごめいている映像が流れただけで「自民党は変わっていない」と、本能的に察知する。

石破降しに旧安倍派、裏金議員らが舞台裏で動いているとの報道が流れる度に「選挙の大敗は自民党そのものにあり、原因を石破首相一人に押し付けるのは間違い」と、世論は感じとるのでしょう。いくつかの新聞、テレビのワイドショーに登場してくる政治評論家、元政治記者らが古い体質の自民党のひも付きであることに気づいています。

既存メディアや評論家、専門家らは情報源に近づきすぎており、かれらと直結した発言、主張をするのに対し、世論を形成する一般の素人集団は詳しい情報ではなく、玉石混交のネット情報も影響して、漠然とした時代観察、体感が出来上がり、それで判断する。「集団知」というのでしょうか。

ドイツ語に「ザイン」「ゾルレン」という言葉があります。「ザイン」は「現実、存在」のことで「・・である」、「ゾルレン」は「当為、あるべき姿」のことで「・・べきである」と理想や規範を指す哲学用語です。既存メディアや専門家集団は「ゾルレン」(あるべき姿を論じる)に傾斜しているのに対し、一般の人々は「ザイン」派なのかもしれません。