ロングライフ牛乳が切り拓く、持続可能な流通の未来

 その一つの挑戦が、ロングライフ牛乳だ。日本市場では、「牛乳=冷蔵保存」という認識が強く根付いており、常温保存可能なロングライフ牛乳は、長らく消費者にとってなじみの薄い存在だった。

「日本では牛乳は冷蔵するものという認識が強く根付いています。しかし、UHT(超高温殺菌)と無菌充填、紙・ポリエチレン・アルミ箔で構成された6層構造の紙容器によって、光や酸素から内容物を守り、6~12カ月の常温保存が可能なのです。消費者の認知拡大には、まだ時間がかかるかもしれません」(同)

 だが、ホウゴー氏は、日本市場の“意外な事実”にも言及する。

「実は、日本でロングライフ牛乳はすでに流通しているのですが、消費者の認識に配慮して、冷蔵売り場で販売されているケースが多いのです。消費者は常温保存可能であることに気づいていないかもしれませんが、流通面ではすでに効率化が進んでいるのです」(同)

 実際、長期で常温保存可能なロングライフ牛乳が物流や販売の効率化、さらには食品ロス削減に大きく貢献している。冷蔵インフラの維持にかかるエネルギー負荷も小さく、特に地方や農村部など物流の効率化が課題となる地域では、ロングライフ牛乳が持つ常温保存性が、社会インフラの一部としても重要な役割を果たす。

「私たちは、安全性と品質を担保しながら、消費者にとって便利で持続可能な製品を届けたい。ロングライフ牛乳は、将来の持続可能な食品流通を支える重要な選択肢の一つだと考えています」(同)

 こうした視点でテトラパックは、日本でも食の流通課題に挑戦していく。日本市場は、品質や精密さ、効率性において世界でもトップクラスの成熟した市場だ。

「2024年問題」への新たなアプローチ

 一方で、食品加工や包装、流通といった“目に見えにくい”プロセスに対する社会的な理解や、長期常温保存を可能にする技術への受容は、まだ十分に広がっていない。

「日本は非常に品質基準が高い市場です。しかし同時に、冷蔵保存へのこだわりなど、文化的な側面から新しい流通モデルの導入には課題もあります。それでも私たちは、日本から多くを学び、日本の社会課題解決にも貢献できると信じています」(同)

 特に、2024年4月から施行されたトラックドライバーの労働時間規制、いわゆる「2024年問題」は、日本の物流業界に深刻な影響を与えている。ドライバー不足と相まって、冷蔵輸送に依存した従来の食品流通モデルは限界を迎えつつある。

「チルド製品は製造から配達まで時間的制約が厳しく、ドライバーにも負担をかけています。常温流通なら製造期間にも余裕ができ、船便や鉄道など輸送手段の選択肢も広がります。また、チルド製品がクレートでの輸送を必要とするのに対し、常温製品はパレット輸送が可能で、大幅な効率化が図れるのです」(同)

 こうした物流効率化は、環境負荷の削減にも直結する。冷蔵車両の運行減少によるエネルギー消費削減、輸送回数の削減によるCO2排出量削減など、従来の「ドライバーを増やす」「輸送効率を上げる」といった発想とは異なる、2024年問題への新しいアプローチといえる。

 テトラパックが提案するのは、物流業界だけでなく食品・飲料業界も含めた構造的な解決策だ。単なる製品提供にとどまらず、企業・自治体・NGO団体などと共創し、労働力不足やサステナビリティなどの社会課題を同時に解決する道筋を描いている。