がんワクチンの基本的な考え方は、がん細胞だけが持っている特別な目印をまず見つけ、その目印を免疫に覚えさせることによって、免疫細胞にがん細胞を『敵』として認識させるというものです。

この目印は『抗原』と呼ばれることもあり、多くはがん細胞が特有に持っているタンパク質がその目印になります。

つまり「このタンパク質(抗原)を持つ細胞ががん細胞だよ」と免疫に教え込むのが従来のがんワクチンの仕組みなのです。

これまでのがんワクチンには、大きく分けて二つのタイプがあります。

一つ目は、多くの患者に共通しているがん細胞の目印を見つけ、それをワクチンにするという方法です。

例えば、ある種類のがんの患者全員に使えるワクチンが作れれば、多くの人を救える可能性があります。

ただ、残念ながら、がんは種類ごと、さらには患者ごとにも異なる特徴を持つことが多く、みんなに共通する目印を見つけることは現実にはとても難しいとされています。

もう一つの方法は、患者一人一人のがん細胞を個別に調べて、それぞれに最適な目印を探し出し、いわば『オーダーメイド』でワクチンを作るというものです。

これは患者ごとに違うがん細胞にしっかりと狙いを定められる反面、一人一人に別々のワクチンを作るためには多くの時間やお金がかかり、ワクチンが完成する頃には、がんが進行してしまうというリスクもあるのです。

そこで研究チームは、「そもそもがん細胞の目印を探すことに時間をかけずに、もっとすぐに使える新しいワクチンが作れないか?」と考えました。

これが今回の研究で提案された、『特定の標的に依存しない』という新しい発想のアプローチです。

米フロリダ大学のエリアス・サイア博士らの研究チームは、「がん細胞ごとに違う目印を探し当てるのではなく、免疫そのものを直接強く刺激することで、まず体全体の免疫力を活性化させてしまえば、結果的にがんも攻撃できるのではないか」と考えました。