ただし、この「電子のやりとり」が具体的にどうやって行われているかは、長年の謎でした。

電子というのは、目に見えないほど小さく直接観察するのが難しいからです。

科学者たちは以前から、「この微生物ペアは電気的なつながりによって協力しているのでは?」と予想していました。

たとえば、細菌が細い電線(ナノワイヤー)を伸ばしてつながっているのではないか、あるいは特別な粒子やタンパク質が電子を運んでいるのではないか、と考えられていました。

しかし、実際にこの電子のやり取りを直接証明することはとても難しく、長い間確かな証拠は得られませんでした。

そこで今回の研究チームは、この微生物のペアが本当に電子をやり取りしているのか、またそれがどのように行われているのかを、科学的にしっかり解明しようと試みました。

電気を送り合う微生物たち

電気を送り合う微生物たち
電気を送り合う微生物たち / Credit:Canva

今回の研究チームは、海底でメタンを分解する2種類の微生物のペアに着目しました。

1つはメタンを食べる特殊な古細菌(嫌気性メタン酸化古細菌)で、もう1つはその相棒となる硫酸還元菌という細菌です。

これらの微生物は、普段は海底の泥の中で多くの他の生物や物質に囲まれて暮らしています。

しかし、このままの状態では、微生物自身の特徴や働きを正確に調べることが難しいため、

研究チームは「微生物だけを増やす培養」を行いました。

この培養では、海底の泥やその他の生き物などの余分なものを取り除いて、

目的とする微生物のペアを中心に増やしました。

電気を通すかどうかを調べるには、微生物の塊を小さな電極につなぎ、電気の流れを測定します。

ちょうど電気の通り道をテストするようなものです。

その結果、なんと微生物の塊は電気をよく通すことがわかりました。

細胞同士がつながって一つの電子回路になっているかのように、電子がスムーズに移動していたのです。