ただし、音楽によって感じる「ちょうど良いドキドキ感」は、人それぞれ全く違います。
同じ曲を聴いても、ある人はリラックスし、ある人は興奮しすぎてしまうように、曲の感じ方は人それぞれなのです。
実際、今回の研究でも、参加者たちはみんな違う反応をしました。
ある人にとってちょうど良い曲が、別の人には強すぎたり、逆に物足りなかったりすることがありました。
つまり、この方法を実際に記憶力の向上に使おうとするときには、「その人にとってちょうど良い曲と興奮の度合い」を見つけることが重要なのです。
研究者たちも今後この技術を普及させるには、さらに詳しい調査が必要だと考えています。
例えば、今回の研究は大学生だけを対象にしましたが、他の年齢層でも同じような効果があるかはまだわかっていません。
また、心拍数や瞳孔の開き具合など、「身体の反応」を測ることで、その人がどれだけ興奮しているかをより客観的に測定することも検討されています。
さらに、記憶が音楽によってどのくらい長期間保持されるのかや、クラシック以外のさまざまなジャンルの音楽でも同じ効果があるのかを調べる必要もあるでしょう。
このようにデータをたくさん集めることで、将来的には「あなたにはこの曲がベスト!」という、一人ひとりにぴったりの「音楽処方箋」のようなものを作れるかもしれません。
実際、今回の研究を率いたリール教授は「音楽には、治療の目的に応じて記憶を強めたり弱めたりすることが可能かもしれません」と述べています。
音楽は身近で気軽に楽しめるものでありながら、記憶という私たちの大切な機能をコントロールするツールとして、大きな可能性を秘めていることがわかります。
今回の研究は、音楽の持つこの新しい可能性を示した重要な一歩となっています。
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元論文
Fine-Tuning the Details: Post-encoding Music Differentially Impacts General and Detailed Memory
https://doi.org/10.1523/JNEUROSCI.0158-25.2025