言うまでもありませんが、人間が歩いたり魚が泳いだり鳥が飛んだりして移動できるのは、周囲に地面・空気・水など、押すことができるものが存在するからです。
地面も空気も水もない宇宙空間では、人間も鳥も魚もバタバタともがくだけで、決して前進することはありません。
この事実を少しカッコつけて表記すれば「運動量の交換なしに加速は起こらない」となります。
運動量の交換とはつまり、人間や鳥の筋肉が地面や空気、水を押すことと、その反作用を受けて移動することを意味します。
しかし21世紀になって発表された革新的な論文を期に、物理学者たちは、この常識が歪みのない空間に適応されるものであり、湾曲した空間では理論上、外部との運動量の交換なしに物体の加速が起こり得ることがわかってきました。
理論を正確に理解するには複雑な数式が必要ですが、ザックリ言えば「空間が曲がっているということは、物体の変形が僅かな位置の変化として作用し、物体を自走させる力になりえる」となるでしょう。
しかし、2003年に理論が発表されてから現在に至る20年間、実証は進んでいませんでした。
大きな空間の歪みを生じさせるブラックホールなどが近場にあれば、実証はスムーズにいったでしょうが、残念ながら地球の近辺にはブラックホールは存在しませんでした。
そこで今回、ジョージア工科大学の研究者たちは、20年前に発表された理論を実証するために、歪んだ空間を再現する装置を開発することにしました。

実験にあたってはまず、上の写真のような球体の表面での移動を反映するロボットが開発されました。