1903年12月17日、ライト兄弟が開発した不格好な飛行機「ライトフライヤー号」は、わずか12秒間、36メートルを飛行した。それは、人類が初めて持続的な動力飛行を成し遂げた歴史的な瞬間だった。以来、航空技術は目覚ましい発展を遂げてきたが、その輝かしい歴史の影には、数え切れないほどの「失敗作」や「迷作」が存在する。

 ここでは、設計者の狂気としか思えない、航空史に埋もれた最も奇妙で奇怪な飛行機たちを紹介しよう。

1. 翼9枚の巨大旅客機「カプロニ Ca.60」 (1921年)

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(画像=Caproni Ca.60(パブリック・ドメイン)リンク)

 単葉機、複葉機、三葉機は聞いたことがあるだろう。では、九葉機はどうだ?

 イタリアのカプロニ社が開発したCa.60は、まさにその常識外れの怪物だった。8つのエンジンと、3枚一組の翼を3セット、合計9枚の翼で空を飛ぶ、巨大な水上旅客機。その目的は、100人の乗客を乗せて大西洋を横断するという、当時としてはあまりにも野心的なものだった。

 しかし、その壮大な夢は、わずか数秒で潰える。2度のテスト飛行で、この巨体は数秒間浮上した直後に墜落。2度目の試みで修復不可能なほど大破した。設計者のジャンニ・カプローニは再建を望んだが、当然ながら「ノー」を突きつけられた。おそらく、それが最良の判断だっただろう。

2. “飛ぶビア樽”「スティパ・カプロニ」 (1932年)

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(画像=Aeronautica Militare Italiana提供/Aviation History 2010年3月号 p.19(パブリック・ドメイン)リンク)

 Ca.60の失敗に懲りず、カプロニは再び奇妙な飛行機を世に送り出す。今度の相棒は、同じくイタリアの設計者ルイージ・スティパだ。

 彼らが目指したのは、混み合う空母のスペースを節約できる飛行機。その結果生まれたのが、ずんぐりとした樽のような形状で、胴体が完全に空洞という、この「スティパ・カプロニ」だった。

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(画像=正面からの写真 Aeronautica Militare Italiana提供/Aviation History 2010年3月号 p.19(パブリック・ドメイン)リンク)

 奇抜なデザインのおかげで、この飛行機は非常に静かだったという。しかし、胴体に開いた巨大な穴が空気抵抗を増大させ、絶望的なほどスピードが遅かった。商業的には失敗に終わったが、この「筒の中を空気が通る」という設計思想は、後のジェットエンジン開発に大きな影響を与えたと言われている。