詳しい分析を行った結果、CAMEはがん細胞が分裂・増殖する仕組みそのものを初期段階で止め(細胞周期のG0/G1期で停止)、細胞に「アポトーシス」と呼ばれる自発的な死滅を引き起こす作用を持つことがわかりました。

さらに詳しく調べると、CAMEはがん細胞内の遺伝子の働きにも直接影響を与えていました。

具体的には、細胞死を促進する遺伝子(Baxやカスパーゼ3といった遺伝子)のスイッチを入れ、一方で細胞の生存やがんの進行を助ける遺伝子(Bcl-2など)のスイッチをオフにしていたのです。

このような多面的な作用によって、CAMEはがん細胞が増殖できない状態へと追い込み、やがて死滅させていたのです。

また、がん細胞の別の重要な性質である「転移」の能力にも、発酵エキス(FSLE)が抑制的に働くことを確認しました。

研究者は実験の中で、人工的に作られた傷(隙間)のある細胞培養皿を使い、がん細胞がこの隙間を埋めるように移動していく能力(遊走能)を観察しました。

その結果、FSLEを与えられたがん細胞は隙間を埋める速度が非常に遅くなり、転移に関連する細胞の『遊走能力』が抑制されることが確認されたのです。

これらの研究結果から、研究チームは、ステビアの葉を乳酸菌で発酵させることで、がん細胞を「増やさず」「転移させず」「自滅させる」という、抗がん作用にとって理想的ともいえる効果が引き出されることを突き止めました。

以上の一連の結果は、身近な甘味料ステビアに潜む抗がんパワーが、微生物による発酵を通じて現実的な治療法へと進化する可能性を示しています。

乳酸菌と植物エキスの融合が「がん細胞」を殺す

乳酸菌と植物エキスの融合が膵臓がん細胞を殺す
乳酸菌と植物エキスの融合が膵臓がん細胞を殺す / で示された結果は、発酵ステビア葉エキス(FSLE)から得られた「クロロゲン酸メチルエステル(CAME)」という成分が、膵臓がん細胞(PANC-1)の増殖をどのように抑えるのかを詳細に解明したものです。 具体的には、この実験はCAMEという物質が膵臓がん細胞に対して「細胞周期の停止」と「細胞死(アポトーシス)の誘導」の2つの方法で抗がん作用を発揮していることを示しています。まず(A)のグラフは、CAMEを膵臓がん細胞に与えた後の細胞周期の変化を示しており、細胞が分裂して増殖するためのサイクルがG0/G1期という初期段階で停止することを示しています。G0/G1期というのは、細胞が新たに分裂を開始するための準備段階に相当し、ここで細胞を止めてしまえばそれ以上増殖することができません。つまり、CAMEはがん細胞が増え続けることを抑える効果を持つことがわかります。 次に(B)のグラフでは、細胞が自然に死滅する仕組みである「アポトーシス」がCAMEによって引き起こされる様子が示されています。CAMEを与える時間を長くすると(12時間、24時間、48時間)、アポトーシスを起こしている細胞の割合が徐々に増えていきます。特に48時間後では、コントロール(何も与えていない細胞)と比べて顕著にアポトーシス細胞が増加していることが統計的に証明されています(**p < 0.01)。これによって、CAMEはただ細胞の増殖を止めるだけでなく、積極的にがん細胞を死滅させる作用があることがはっきりと示されました。まとめると、この実験はCAMEが膵臓がん細胞に対して2つの重要な効果、すなわち「細胞を初期段階で停止させることによる増殖抑制」と「アポトーシスを促進することによるがん細胞の自滅」を引き起こすことを明らかにしています。これらの効果によって、CAMEが膵臓がんの治療薬として大きな可能性を持つことがわかります。/Credit:Stevia Leaf Extract Fermented with Plant-Derived Lactobacillus plantarum SN13T Displays Anticancer Activity to Pancreatic Cancer PANC-1 Cell Line