ただし、そうした研究の多くは、メラトニンやコルチゾールなど限られたリズムしか調べておらず、それも個別に扱われることがほとんどでした。体内のリズムがどのようにずれているのかを同時に測定し、そのズレのパターンを個人ごとに詳しく分析するような研究は、これまでほとんど行われていなかったのです。
その理由は、技術的な問題ではなく、非常に手間のかかる観察と測定が必要にだからです。
一人の参加者から、メラトニン、コルチゾール、体温という三つのリズムを正確に記録するには、複数のセンサーを使った夜間の継続的な観察などが必要になります。こうした負担の大きい研究に取り組むには、時間と労力、そして粘り強さが求められるため、これまで挑戦する研究者はほとんどいませんでした。
そうしたなかで、今回のシドニー大学(The University of Sydney)の研究チームは、気分の不調を抱える若者を対象に、三つの体内リズムを同時に測定し、それらのタイミングのズレを個別に解析するという調査を実施したのです。
その目的は、「体の中の時計同士がずれていること」が本当に気分の落ち込みと関係しているのか、また、どのようなズレ方が問題になるのかを、科学的に明らかにすることです。
チームはこれまでの研究では十分に捉えられなかった“体内で起きる時間のズレ”を初めて本格的に検証することで、「ちゃんと寝ているつもりなのに、なぜか調子が悪い」という、これまで説明のつかなかった感覚の背後にある、生理的な仕組みを解き明かそうとしたのです。
3つのリズムを同時に測ると、見えてきた“心のズレ”

今回の研究で研究チームが挑戦したのは、体内リズムのズレを「正確に、同時に、個別に」測定することでした。対象となったのは、気分の不調を抱える69人の若者と、対照群となる健康な19人です。
研究チームが着目したのは、体内時計の中でも特に重要とされる3つのリズムです。