ところが、こうした細胞内共生がどのように始まり、どのようにして深い関係へ発展したのかは、いまだ多くの謎に包まれています。

現代にも細菌と古細菌は存在しますが、特に古細菌は試験管内で培養するのがとても難しく、その生態を詳しく調べるのは困難でした。

近年注目を集めているのが「アスガルド古細菌」というグループです。

これは北欧神話の神々(ロキやオーディンなど)にちなみ命名された古細菌で、真核生物に特有のタンパク質を数多く持つ珍しい古細菌です。

アスガルド古細菌は、現在知られている生物の中で最も真核生物に近いグループと考えられています。

そのため、アスガルド古細菌と細菌の共生関係を解明することは、真核生物の起源を探る重要な手がかりになると期待されています。

とはいえ、アスガルド古細菌は成長が遅く個体数も少ないため、詳細な研究は容易ではありません。

そこで研究チームは、太古の地球環境を現代に残す場所で調査を行うことにしました。

彼らが注目したのは、西オーストラリアのシャーク湾ハメリンプールに広がる微生物マット(さまざまな微生物が層を成して暮らす「微生物の集合住宅」)です。

微生物マットの表層には光合成を行うシアノバクテリアが多く、酸素を生み出しています。

一方、酸素が届かない深部には細菌と古細菌が共存し、お互いが作り出した物質を交換しながら暮らしています。

この環境は二十億年以上前の地球にも存在していたと考えられ、真核生物誕生の舞台を探るうえで格好のモデルになるかもしれません。

そこで研究チームはこの微生物マットからアスガルド古細菌を培養し、細菌との関係を詳しく解析することで、真核生物誕生の謎に迫ろうとしています。

古細菌と細菌が連結している

古細菌と細菌が連結している
古細菌と細菌が連結している / Credit:An Asgard archaeon from a modern analog of ancient microbial mats