例えば日本語の「かける」という言葉は、電話を「かける」、メガネを「かける」、醤油を「かける」など、たくさんの場面で使われますよね。
こうしてひとつの単語が様々な場面で使われると、その単語は自然にいろいろな意味を持つようになります。
つまり、よく使われる単語ほど、たくさんの場面で便利に使えるように進化してきた可能性があります。
日本語の「耳」などもそうです。
本来の身体部位としての「耳たぶ」、そして「耳が遠い」のように「聴力・聞こえる能力」という意味、さらには「端の部分」という慣用的な使い方も存在します。
これらはすべて、「耳」が持つ「端」「縁」「聴く」のイメージから比喩や換喩によって派生した意味です。
日本人が食パンを目にしたとき、その端の部分を自然に「パンのミミ」と呼ぶようになったのも、耳の持つ端というイメージが拡大され使いまわされた結果と考えられます。
そういう意味では「耳」の多義性は、まるで中心(プロトタイプ)から放射状に広がる意味のネットワークのように構成されており、便利で省エネな言語使用の結果として成立しています。
逆に、あまり使われない言葉は限られた場面でしか使われないため、意味が少ないままになるのです。
言い換えると、言葉は少ない数でも色々な意味を伝えられるように、効率的に進化してきたと言えるかもしれません。
また今回の研究結果は、AIという新しい技術にも大きな影響を与える可能性があります。
現在、AIは私たちと自然な会話ができるようになっています。
例えば、ChatGPTのような生成AIは、人間が使う言葉の意味をきちんと理解して、自然な返答をしなければいけません。
そのためには、ひとつの単語が持つ多くの意味(多義性)を正しく理解する必要があります。
そこで今回の研究チームは、AIが本当に「単語の多義性を理解できているか」をチェックする簡単な方法として、この法則を使える可能性を示しました。