それでも今回の研究は、観測の向きとドップラー効果という「素直な物理」で、複雑に絡まっていた宇宙の矛盾を一部ほどいたという意味で、大きな意義があります。
そして、今回使われた偏光観測の手法は、他のブレイザー銀河の解析にも応用できるため、今後の研究にもつながっていくでしょう。
たとえば同様の手法を用いて他の天体を調べることで、どのくらいの頻度でジェットが地球方向を向いているのかを調べたり、宇宙でもっとも高いエネルギーを持つ粒子がどこで作られているのかという根本的な問いにも近づける可能性があります。
今回のような研究が積み重なれば、やがてサウロンの目の秘密が完全に解き明かされる日が来るかもしれません。
ややくわしい解説
本研究は、ブレーザー PKS 1424+240 のパーセクスケール・ジェットを、VLBA 15 GHz 偏波観測の 2009–2025 年にわたる 42 エポックを統合(stacking)して高ダイナミックレンジ化し、Stokes I,Q,U のデバイアス処理と系統誤差低減を経て、偏波ベクトル(EVPA)分布から磁場構造と視線幾何を同時に制約したものである。最終スタック像では EVPA がほぼ環状に配列し、電場ベクトル 90°回転により復元される磁場が「ネットのトロイド成分」を持つことが非曖昧に示された。ファラデー回転(RM)は全エポックで同時取得されていないため絶対 EVPA の厳密補正には限界が残るが、得られた RM が小さいこと、ならびに周波数依存の挙動から、主要結論(環状磁場署名)は系統で説明しにくい。形態学的には見かけの開口角 phi_app が異常に大きく、射線がジェット円錐の内側から軸方向へと向く「inside the cone」幾何であることを示唆する。
運動学的には、視線角 theta が 1 度より十分小さく、とくに theta < 0.6 度という強い上限の下で、低い見かけ速度と高いビーミングを同時に満たすドップラー因子 delta が導かれる。ここで用語と式を明示しておく。ローレンツ因子を Gamma、実速度を beta = v/c とすると、ドップラー因子は