ところが、この銀河はとても遠くにあり、普通の望遠鏡ではそのジェットの細かな姿を観測することができません。
そこで研究チームは、「VLBA」という特別な観測システムを使いました。これはアメリカ中に点在する複数の電波望遠鏡を連携させて、まるで地球サイズの巨大な望遠鏡のように使う仕組みです。
この方法を使えば、遠く離れた天体のきわめて細かい構造までとらえることができます。
VLBAを使った観測は、2009年から2025年まで15年以上にわたって行われました。
その間に撮影された42枚の電波画像を、研究チームは1枚に重ね合わせて「スタッキング」という処理を行いました。
これは暗い写真を何枚も重ねて明るくはっきりさせるのに似ていて、ぼんやりしていたジェットの形がくっきりと浮かび上がるようになります。
この画像処理によって、PKS 1424+240のジェットが実際には非常に細かく複雑な構造をしていることが明らかになりました。
するとジェットは地球方向にほぼまっすぐ向いており、視線に対する角度が0.6度未満であることがわかりました。
また注目されたのは「偏光(へんこう)」という性質です。
これは電波が一定方向にだけ振動していることで、この偏光の方向を調べることでジェット内部の「磁場(じば)」――つまり、磁石の力が働く空間――の様子を知ることができます。
分析の結果、ジェットの磁場がドーナツ型にぐるりと巻いている「トロイダル構造」になっていることが確認されました。
まるでバネのようにジェットを包み込むこの磁場は、ジェットに電流が流れていることを示しています。
こうした環状の磁場を直接観測できるのは非常に珍しく、PKS 1424+240がこれまでのブレイザー(地球の方向にジェットを向けた銀河)と比べても、特別な構造を持っていることがわかったのです。
コラム:なぜ「サウロンの目」なのか?
PKS 1424+240が「サウロンの目」と呼ばれるようになったのは、その観測画像が、まるでファンタジー小説『指輪物語』(ロード・オブ・ザ・リング)に登場する悪の象徴“サウロン”の巨大な目にそっくりだったからです。サウロンの目とは、物語の中で常に世界を見張り、不吉な力を放つ存在として描かれており、多くの人に強烈な印象を残しています。今回、VLBA(超長基線電波干渉計)による15年にわたる観測で得られたPKS 1424+240の偏光画像では、中心部から同心円状に広がる磁場の線が、ちょうど“炎をまとった大きな目”のように見えました。そのため、研究チームはこの天体画像を“サウロンの目(Eye of Sauron)”と名付けたのです。科学者たちが、圧倒的なインパクトを持つ観測結果に親しみやすい呼び名を与えた好例と言えるでしょう。