もともとは細菌が周囲に一酸化炭素があるかどうかを判断するための「センサー」として働いていたものですが、研究チームはこの“強くCOと結びつく力”を一酸化炭素中毒の治療に利用できないかと考えたのです。
そして研究者たちはこのRcoMをベースに、医療用にふさわしい性質を持つよう設計し直し、RcoM-HBD-CCCという小さなタンパク質を作りました。
このタンパク質は血液中に入ると、一酸化炭素に非常に強く結びつき、ヘモグロビンから一酸化炭素を引きはがす役割を果たします。
たとえるなら、血液の中に入れる「小さなタンパク質の掃除屋」で、毒ガスだけを狙って捕まえるイメージです。
さらに重要なのは、酸素と結びつく力は弱いため、酸素の運搬は邪魔しにくいという点です。
研究チームは、まず試験管内で赤血球からどのくらい素早く一酸化炭素を取り除けるかを調べました。
次に、マウスに急性の一酸化炭素中毒を起こして、このタンパク質を静脈注射し、血液の中でどのように働くかを確かめました。
数分で赤血球からCOを引き抜き、安全性も高い
マウスの実験では、RcoM-HBD-CCCを注射すると、赤血球にしがみついていた一酸化炭素が短時間(数十秒~数分)でこのタンパク質に移り替わることが確認されました。
その結果、血液中のヘモグロビンは再び酸素を運べる状態に戻り始めました。
このタンパク質は一度つかまえた一酸化炭素をほとんど離さない強さを持つため、再び血液に戻る心配が少ない点が大きな利点です。
さらに安全性の観点でも前進がありました。
過去にはヘモグロビンそのもののようなタンパク質を投与すると、一酸化窒素(nitric oxide, NO)という血管を広げるガスを奪ってしまい、血圧が上がるなどの副作用が問題になりました。
今回のRcoM-HBD-CCCはそんな一酸化窒素(NO)との不要な反応性が低く、マウスの実験では血圧の大きな乱れが見られず、臓器のダメージを示す検査値の上昇も確認されませんでした。