一酸化炭素中毒が厄介なのは、死亡の危険があるというだけでなく、たとえ助かったとしても深刻な後遺症を残すケースがあるという点です。

一酸化炭素は血液中の赤血球が持つヘモグロビン(hemoglobin)という赤いタンパク質に強く結びつきます。

ヘモグロビンは本来なら酸素を全身へ運ぶ役目を持ちますが、一酸化炭素が先に席を取ってしまうと酸素が運べなくなります。

この状態のヘモグロビンは一酸化炭素ヘモグロビン(carboxyhemoglobin)と呼ばれ、通常の酸素よりはるかに強く結合してしまい離れにくい性質があります。

結果として、脳や心臓のように酸素を多く必要とする臓器が酸欠でダメージを受け、記憶障害や集中力の低下、心筋の障害といった後遺症につながるのです。

このような状態に陥ってしまった場合に、現在医療が行える標準治療は、100%酸素を吸わせる高流量酸素吸入や、高圧環境で酸素を吸わせる高圧酸素治療です。

これらは血液中の酸素の濃度を高めて、一酸化炭素を少しずつ押し出していきます。

ただこの酸素療法では、完全に酸素と一酸化炭素が入れ替わるまでに時間がかかります。さらに搬送や準備にも時間を取られるため、たとえ命が助かっても脳や心臓などの臓器にダメージが残ってしまうことが少なくありませんでした。

そこ今回ので研究チームは「血液の中で一酸化炭素を直接捕まえて外に排出する解毒剤を作る」という、これまでとはまったく異なるアプローチを考えました。

そこで着目されたのが、土壌細菌が持つ“一酸化炭素に結びつくタンパク質”です。

このタンパク質はRcoM(regulator of CO metabolism)と呼ばれ、ごくわずかな量の一酸化炭素でも素早く結合して反応を起こす性質を持っています。

自然の中にあるタンパク質RcoM/Credit:University of Maryland School of Medicine