多くの人が、一生に数回しか経験しない葬儀。しかし、料金体系のわかりにくさや慌ただしい意思決定などが原因となり、消費者と葬儀事業者の間でトラブルが増えています。
「こうしたトラブルの根底には消費者と葬儀事業者の“情報格差”がある」と話すのは、燦ホールディングス株式会社の代表取締役社長、播島 聡氏。
燦ホールディングスは創業90年以上の歴史があり、東証プライム市場に上場する全国展開の専業葬儀事業者です。グループ会社としては、株式会社公益社や株式会社きずなホールディングス、ライフフォワード株式会社などがあります。
今回は、播島氏に、葬儀業界における課題とその原因、燦ホールディングス株式会社が終活の啓蒙に尽力する理由などをお聞きしました。
本当に納得できる「人生の終わり方」のために、私たちはどのように向き合えばよいのでしょうか。その答えに迫ります。
消費者と葬儀事業者の“情報格差”はなぜ起こる?
——現在、葬儀業界で起こっている問題があれば教えてください。
現在、独立行政法人・国民生活センターへの葬儀に関する相談が増加しています。相談件数は、2024年には978件にも上っています。
最近目に付く事例は「提示されている金額よりも高額になった」「希望していないオプションをつけられた」などの、料金に対する相談です。CMなどにより家族葬は比較的金額が抑えられるというイメージが定着しつつあり、提供されるサービス内容についてよく判らないまま、広告で表示されている料金だけで依頼する葬儀事業者を決めてしまうことで、葬儀後に金額や内容に疑問や不満が出てくるというケースが多いようです。
この問題に対して、私は「葬儀事業者が持っている情報」と「お客様が持っている情報」に格差があることが原因だと考えています。

——葬儀事業者と消費者の間に情報格差が発生してしまう原因はどこにあるのでしょうか?
私は、おもに ●葬儀は日常使いするサービスでないということと、比較検討する十分な時間や判断基準がない中で、提供されるサービス内容や料金について短時間で判断・決定しなければならないということ ●葬儀業界への新規参入ハードルの低さ ●料金体系のわかりにくさ
この3つだと思っています。
葬儀などのエンディングに関するサービスを利用する機会は、どんな方でも一生に数回程度です。そもそも日常使いするサービスではないため、お客様の多くは、依頼する事業者を選定する判断基準を持っておられないのではないでしょうか。
さらに、葬儀を執り行うまでに時間がなく、慌ただしく物事を決めなければなりません。情報に接する頻度が少ない上に、情報を精査する時間もないのです。
また、葬儀事業そのものは許認可制ではないため、事業者にとって参入ハードルが低い業界です。
事業者ごとに葬儀に対する知識や考え方が違うため、提供するサービスや価格のばらつきが大きく、同じサービスでも金額の桁が違う場合もあります。
お客様から見た際、事業者ごとの知識量や考え方の差が見えづらいことで、安心して葬儀を任せられる事業者なのかが判断できないのです。
サービス内容や価格体系がそもそも不透明な業界であった、ということも、お客様がエンディングサービスに関する正確な情報を得づらかった原因のひとつです。
以前は人生のエンディングに関して、価格の話をしたり聞いたりすることをはばかる方が多く、葬儀業界からも積極的に情報発信がされてこなかったという歴史があります。
燦ホールディングスのグループ中核葬儀会社の公益社では、公益社としての創業当初から価格を明確に打ち出す取り組みを行ってきたのですが、数十年前は「なぜ料金をオープンに見せるんだ!」など、むしろ同業者からのクレームが多かったですね。
葬儀などは、終わってしまうとやり直しができません。エンディングサービスに対する情報を得られないことは、お客様の後悔につながってしまう可能性があります。
——価格に対しては、ネット広告やテレビCMなどで低価格を明確に打ち出す事業者も増えている印象です。
テレビCMなどでプロモーションを行っていた多くの事業者は、お客様に葬儀事業者を紹介する仲介事業者ですが、彼らのマスメディアを使った広告宣伝の効果もあって、「安い葬儀」=「家族葬」というイメージが消費者に定着したと言っても良いかと思います。
お客様が安くてよいサービスを求めることは自然なことですし、決して悪いことではありません。
問題は、広告宣伝で表示している価格や提示された見積金額と、結果的に支払う金額が大きく乖離(かいり)して、お客様に不信感が残ってしまうなど、消費者センターへの相談につながってしまうようなサービス提供を行っている事業者も一部存在していることですね。
