では、栄養分として血液を飲むことに意味はあるのでしょうか?
さきほどの吸血鬼の主張のとおり、血液に多くの栄養分が含まれているのは確かです。
しかし血液は栄養分を運ぶ以外に、細胞に酸素を届ける役割も担っており、赤血球には酸素をくっつけて運ぶために多量の鉄分が含まれているのです。
鉄分不足が解消されてお得と思うかもしれませんが、それは間違いです。
鉄は生命を維持するのに必須な元素ではありますが、多すぎる鉄は人間にとって有毒です。
血液に含まれる鉄分の量は、肉や脂にくらべると遥かに多くなっており、ゴクゴクと大量に飲んでしまうと「ヘモクロマトーシス」と呼ばれる鉄過剰の病気になってしまい、疲労や関節痛、性欲の低下、肌の黒ずみなどの症状を引き起こし、肝硬変・糖尿病・心不全を併発させることがあるのです。
では他の動物の血を長期にわたりエサにしている吸血コウモリの場合はどうなのでしょうか?

これまでの研究により吸血コウモリには、血に含まれる鉄などのミネラルが吸収されるのを防ぐ遺伝子があることが知られています。
そのため吸血コウモリは鉄過剰になることなく、血を栄養分にできるのです。
では人間の遺伝子を組み変えて、同じようにミネラルの吸収を抑える遺伝子を獲得できれば、血を主食にできるのでしょうか?
残念ながら答えは「NO」です。
自分ではない血には、鉄分よりも遥かに恐ろしい危険が潜んでいるからです。
他人の血は感染症を引き起こす

よく知られている通り、血液は感染症の温床でもあります。
HIVやB型肝炎、C型肝炎などを引き起こすウイルスなどは感染者の血液に含まれているため、不用意に粘膜に接触したり輸血した場合には、他人に感染してしまうからです。