溺死事故は「どこでも」起きる――普及の急務

 高木氏は「事故が多いのは海や川だけではない」と強調する。プールでも事故件数は増加しており、特に夏休みの水泳教室やレジャープールでは監視体制が追いつかないケースがある。

 実際、小金井市の事故をはじめ、過去数年でも市民プールや学校施設での死亡例は報告されている。

「Meelのようなシステムが全国のプールに配備されれば、数秒で救える命が確実に増えます」

導入の壁――コスト、運用ルール、文化的課題

 全国展開には課題も多い。まずは導入コストだ。機器本体やセンサーの価格、メンテナンス費用は自治体や民間施設にとって負担となる。

 また、利用者全員にセンサーを装着させるためのルールづくりや、学校・保護者の理解も必要だ。

 海外では監視カメラ+AI解析方式のシステムが導入され始めているが、日本はプライバシー意識の高さから慎重姿勢が目立つ。RFID方式はその懸念を回避できるが、「装着を嫌がる子ども」や「自由度の高い海水浴場」での対応は依然として課題だ。

スタートアップが挑む「社会実装」

 安全分野の製品は、開発後すぐに売れるわけではない。社会全体での信頼獲得と制度整備が必要だ。高木氏はこう語る。

「我々だけでやるのではなく、水泳連盟、スイミングクラブ協会や教育委員会、ライフセービング協会など、関係者が手を組むことが重要です。安全は競争ではなく、協力で作るものです」

 補助金や助成制度、保険会社の割引制度などが組み合わされれば、導入の加速も期待できる。スタートアップとしては、技術面だけでなく行政・業界団体との連携が成功のカギとなる。

技術を「社会の標準」に――命を守るインフラとしてのMeel

 水辺の安全はサービスではなく、社会インフラだ。道路に信号機があるように、プールや海水浴場にも「命を守る仕組み」が当然のように備わる未来が必要だ。

 高木氏は最後にこう締めくくった。

「溺水事故をゼロにすることは難しいかもしれません。でも、1秒で気づけるなら、防げる命は必ずある。そのために技術を磨き続けます」

 事故は起きてからでは遅い。今求められているのは、「誰もが安心して水辺を楽しめる社会」を実現するための行動だ。その第一歩として、Meelはすでにスタートラインに立っている。

(文=UNICORN JOURNAL編集部)