検知から通知まで約1秒――「Meel」の革新性

 こうしたなか、株式会社プライムセンスが開発したプール向け安全監視システム「Meel(ミール)」が注目を集めている。溺水の兆候を検知してから通知まで、わずか約1秒。現場の監視員やインストラクターに即座に知らせ、救助活動を開始できる。

 代表取締役の高木淳氏は、開発の背景をこう語る。

「私はもともとトライアスロン競技の経験者で、水泳の危険性を肌で感じていました。子どもたちが安全に水泳を学べる環境を作りたい。でも、これまで世の中に本格的な溺水検知システムはほとんどなかった。それなら自分たちで作ろうと、千葉大学との共同研究を始めたのです」

 高木氏自身、泳げない状態からトライアスロンを始め、水の怖さと正しい泳ぎの重要性を実感してきたという。その経験が、命を守る技術の開発を後押しした。

技術の中核はRFID――プライバシーに配慮した検知方式

 Meelの心臓部は、交通系ICカード「Suica」や「PASMO」にも使われるRFID(無線自動識別)技術だ。ただし、同社が採用するのは長距離通信に対応した周波数帯で、25メートルプール全域をカバーできる。

 利用者は、RFIDチップを内蔵した小型センサーを水泳帽やゴーグル、首輪状のバンドに装着。監視システムは、センサーが一定時間水中に留まり続ける状態を検知すると、瞬時に警報を発する。

 検知~通知の所要時間は約1秒。人間の視覚監視に頼るより圧倒的に早く、誤検知率も低い。

 最近は監視カメラ映像+AI解析による検知方式も開発されているが、日本ではプライバシーへの懸念や設置コストの問題で普及が進みにくい。対象が水着という特性から、この問題は避けて通れない。RFID方式は顔や身体を映さずに検知できるため、導入の心理的ハードルも低い。

市場投入は来シーズン、まずは「閉鎖水域」から

 現在、Meelは大学との共同研究フェーズを終え、実証実験の最終段階にある。リリースは来シーズンを予定しており、当面はスイミングスクールや小学校プールといった閉鎖水域に特化する。

 その理由は明快だ。

 第一に、海や川など広大な水域では電波が届きにくく、監視精度が落ちる。第二に、一般客が集まる海水浴場ではセンサー着用を義務付けるのが難しい。ただし、沖に浮かぶ小規模なフロートや限定水域では導入の可能性がある。近年、沖合に人工浮島を設置した海水浴場が増えており、こうした限られた範囲なら技術的に対応可能だという。

 さらに、太陽光発電による駆動も実証済み。電源確保が困難な屋外施設でも、日中であれば安定稼働できることが確認されている。