「原子爆弾があれば水際での戦争も不可能となり、300年もたてば再起可能になるような条件でも仕方がない」

この発言は、昭和天皇が原爆の破壊力を認識し、従来の「本土決戦」方針から降伏への転換を強く望んだことを示している。欧米の識者の解釈も、東京大学の加藤陽子教授の感想も、基本的に似ている。

従来は「ヒロシマ」と「ソ連参戦」が1つのセットで、日本の降伏受け入れの決定打とされてきたが、近年はこの8月8日の発言が「核要因説」の重要な根拠とされ、再評価されている。

他方、米国側の視点から原爆使用の理由を探ると、最も多くの公文書を読み込んだとされるガー・アルペロビッツ博士(私の大学院の先輩でもあり、複数回対談経験あり)は、「原爆使用は不要だった」との主張を20年以上前から展開している。

彼によれば、原爆投下の主目的はソ連への威嚇であり、日本の降伏は二次的な理由に過ぎないという。確かに当時の米国は、ソ連の正式参戦による領土問題などを懸念していた。日本が天皇の命を守るためにソ連への仲介工作を進める中、米国はソ連参戦前に日本を降伏させる必要があった。原爆はその「最後の切り札」であり、これを知ったソ連は参戦を急ぎ、スターリンは千島列島のみならず北海道の獲得も視野に入れていた。

つまり、「ソ連への威嚇」と「日本の降伏促進」は密接に関連しており、両者は目的として重なり合っていた。

他にも上記2つの主要因と比較ならない位小さいが、原爆使用の要因として以下が挙げられる:

要因 内容

① 復讐 真珠湾攻撃への報復

② 予算正当化 マンハッタン計画の巨額予算の成果を示す必要

③ 実験 プルトニウム型爆弾の初使用

④ 放射能研究 人体への影響の実地検証

⑤ 人種差別 「イエローモンキー」への偏見

「いずれ日本は降伏する」ので、ナガサキは不要だったというのは、米側識者ほぼ全員の意見だ。ではヒロシマは?これも基本背景は似ているとしつつも、8月14日以降にずれ込めば、空爆による民間人の犠牲は日々数人〜数十人にのぼり、米軍は本土決戦において毒ガス使用も計画していた。仮に数ケ月後の降伏となれば、日本の民間人も含めて日米双方で数百~数万人の死者が出ていた可能性もある。