アンモニアの製造工場が増える

 アンモニアが環境負荷低減につながるということに懐疑的な見方もある。例えば、アンモニアには窒素が入っているので、燃やすとNox(窒素酸化物)が増えるのではないかという見方だ。

「実際には石炭火力発電でアンモニアを30~50%ぐらい混ぜても、NOxは減る方向に行くという結果が出ています。一方、ガスタービンにはNOx除去する排煙脱硝設備がついておらず、アンモニアを混ぜた時にNOxが出ることが懸念されるため、ガスタービンの場合はNOxを除去する脱硝設備をつけなければならないという指摘があります。燃焼条件によってNOxが出るということになった時に、それをどう取り除くのか。アンモニアではなくて、その前段階で水素にクラッキングしておいて水素を入れるほうがいいのではないかという議論もあります。ですので、ガスタービンで使うには技術開発すべき要素が残っていますが、一方で石炭火力に関しては、すぐにでも入れられるというのが実際に石炭火力を運用している側の人たちの意見です」

 気になるのは、アンモニア燃料に関する事業・ビジネスは将来的に大きく成長するのかという点だ。

「一般的に石炭火力発電所の発電量は60万kWほどですが、それに対して3分の1の20万kW分、もしくは2分の1の30万kW分をアンモニアに置き換える場合に、どのくらいアンモニアが必要なのかという議論になると思います。そうなると、火力発電所1カ所で、日本の現在流通している量に相当する100万トンほどのアンモニアが必要になります。10カ所だと10倍の1000万トンという規模のアンモニアが必要になってきます。ですので、大規模なアンモニアの製造工場が海岸線を持っている県などにいくつもつくられて、年間3000万~5000万トンのアンモニアが2050年頃には流通するようになるという予測が広まっています。

 また、アンモニアと似た製造方法であるメタノールも、アンモニアと同じく年間100万トンほど流通しており、メタノールについても産業界はウォッチしています。アンモニアもメタノールも水素からつくるものであり、基本的には水素社会の実現という大きな枠組みで捉えるものです」

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=市川貴之/広島大学大学院教授)