第3の実験では、さらに分析を深め、アメリカ人403人を対象に調査を行いました。
その中で、景観を「青・緑・灰色(都市)」に分類し、その場所に最後に行った時期や心理的な効果を評価しました。
結果として、ノスタルジックな場所は「青く、緑が多く、灰色が少ない」傾向がありました。
また物理的・時間的には遠いのに、心理的にはとても近く感じられました。
そして、その場所を思い出すことで、「自分がずっと変わらずに続いているという感覚」「自信や自己肯定感」「自分らしさの実感」 が、統計的にも有意に高まっていました。
なぜ青い景色がノスタルジーを引き起こすのか

なぜ青い風景がここまで強力なノスタルジーの引き金になるのでしょうか?
研究チームはその理由のひとつに、「フラクタル構造」という視覚的な特性を挙げています。
たとえば、海岸線のようにパターンが繰り返されながらも変化がある景観は、人間の脳に心地よさを与えるとされています。
海岸線や水面は、パターンがほどよく繰り返される中に変化があり、視覚的に“ちょうどいい複雑さ”を持つため、脳が心地よく感じるのです。
都市のスカイラインのように単調すぎず、森のように混沌としすぎない。
そんな絶妙な景観構造が、ノスタルジーや幸福感を引き出すのではないかと考えられています。

この研究は決して“ロマンチックな空想”に留まりません。
むしろ都市計画や福祉政策に応用できる可能性を秘めています。
たとえば、都市部における水辺や緑地の整備は、単なる景観の美しさではなく、市民の心の健康を支える重要なインフラになると考えられます。
また、思い出の場所に基づいたノスタルジー回想療法は、孤独感の軽減や認知症ケアに有効であることも示唆されています。